我楽多屋 具無理にようこそ 六

「萌衣を一人にしたらぶっ殺すから……」


 絞り出すような呟きに彼女の只ならぬ変化を感じていた、

 萌衣ちゃんは自分の部屋のドアを開けるのも、やっとの思いだったみたいだ。


 雷でこんなに怖がるは何故なんだろう?

 脱力して床にへたり込む彼女、震えが止まらない……

 雷の怖さだけでは無い様だ。


「萌衣ちゃん……」

 停電して空調が止まり、エアコンが効かない室内は、肌寒さを感じる程だ。

 そう言えばあの風呂場の騒動で、お互いお風呂には入っていない、

 彼女の体の震えはそこから来ている事に気がついたんだ。


「萌衣ちゃん、ゴメンね……」

 声を掛けながら、脱力したままの彼女を背負う。


「な、なっ、何すんだ、変態、でく助!」

 いきなりの事にオッサン口調も忘れているみたいだ。


「ちょっと我慢してね、風邪引いちゃうと大変だから……」


 萌衣ちゃんをおんぶして向かう先はお風呂場だ。

 停電しているが、ボイラーで沸かしたお風呂は暖かいままだ、

 脱衣所に到着して、彼女を降ろす、


「さっきの騒動でお風呂に入ってないんだ、

 寝る前に、冷えた身体を暖めないと風邪引くよ」


 彼女だけでも入浴してもらおうと、脱衣所を立ち去ろうとする。


「待って、一人にしないで!」

 必死の想いで俺を呼び止める、


「約束したんじゃないの? 萌衣を一人にしちゃダメなんだから!」

 虚勢を張っためいちょんはもう何処にも居ない……

 そこに居たのは不安に震える普通の少女だけだったんだ。


「お願いだから、一緒にいて…… 私を一人にしないで!」

 彼女の悲痛な叫びに、胸を打たれる、

 でもお風呂に入一緒に入るわけにはいかないだろう……


「もう全部、君には見られたから、平気なの」


 えっ? 急に何を言い出すんだ……


「知ってる? 物心ついてから、男の人で萌衣の全てを見たのは君だけなんだよ、

 だから責任取ってね!」


 な、何の責任を取らなけりゃいけないの?


「萌衣がお風呂に入る間、一緒にいて」

 さすがにそれはマズいだろう……

 それでさっきはぶっ殺されかけたんだから。


「平気だよ、一度見られているから、減るもんじゃないし……」


 その理論は、狂犬モードの思想じゃないの?


「責任取ってね! でく助君」

 暗闇の中でも彼女の笑顔は分かるんだ、

 仕方ない、彼女だけでも入って貰わないと困るんだ……

 浴槽のフタを開け、片手でお湯の熱さを確かめる、

 いい湯加減だ、そんな俺を尻目に、

 萌衣ちゃんが脱衣所で服を脱ぎ始める。


 暗闇の浴室に裸の天使が乱入してくる……


 見えないはずの白い裸身が俺の脳裏に蘇ってきたんだ

 その背中には天使の羽がしなやかに広がっていた気がした。


 暗闇に目が慣れて来てもハッキリとは見えないはずなのに、

 天使の羽は何故か鮮明に見えた、


 ざっ、ぶ~~ん、と勢いよく湯船に飛び込む君、


「あ~~ きっ、もちっいい!」

 こちらからはシルエットしか見えないが、

 萌衣ちゃんが無事、入浴してくれたみたいだ。

 確かに停電の中では、萌衣ちゃんの入浴シーンも全く見えないので、

 彼女が、了承してくれたのも分かる気がする。


「ちょっと、突っ立てないで、ボディソープの用意をしなさい」


 狂犬モードで無くとも、人使いが荒いのは変わらないんだな。

 んっ、ボディソープは何に使うの?


 その衝撃的な疑問の答えを、萌衣ちゃんが俺に告げる、

「全部見た責任を取って、君が洗うんだよ、萌衣の身体……」






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