我楽多屋 具無理にようこそ 五
ダイニングでのセッションを終え、夕食の片付けを済ませると、
結構、遅い時間になってしまった、
外は暴風雨と言って良い位で、バイクで帰るのは憂鬱だか、
レインスーツも積んであるので何とかなるだろう、
対面のキッチンで、洗い物をしているめいちょんに声を掛ける。
「ビーフシチュー、ごちそうさま! もうこんな時間だから俺は帰るよ
明日もバイトに来るから、どうぞお手柔らかにね」
ヘルメットを片手に帰り支度をする。
「でくのぼうで役立たずだし、店番、一人で十分、いらん、いらん!」
すっかり、元に戻っためいちょんがお得意の毒舌で答える。
「まあ、具無理のマスターのお願いだから、そう言わないでよ……」
苦笑いしながらリビングを出ようとしたその時、
激しい雷鳴音の衝撃で窓ガラスが激しく振動した、
建物が揺れる位の大音量だ……
次の瞬間、建物のどこかで音がして、一斉に電気が消える、
どうやら雷で停電してしまったようだ、
真っ暗で何も見えない……
漆黒の闇の中、窓の外が一瞬昼間の様に明るくなった、
また大きな雷が来るな、
しばらく間隔を空けて、先程より大きな雷鳴音が轟く。
「キャッ!」
真っ暗なリビングでめいちょんが悲鳴を上げるのが聞こえた、
狂犬娘も雷が怖いのか?
「もしかして雷、苦手なの?」
俺の問いかけに虚勢を張って答える彼女、
「馬鹿も休み休み言え! 怖い物なんてあらへんわ!
雷が怖くて、へそが出せるか、アホンダラ!
ちゃんちゃらおかしくて、へそで茶を沸かすわ、ボケナス!」
無理しているのが暗闇でも伝わって来て、妙に可笑しくなる。
「分かったよ、平気なら俺は帰るよ……」
先程のお風呂の仕返しがしたくて、何だか意地悪になってしまう、
リビングのドアを開けて、出て行こうとする俺、
廊下に出て、めいちょんの部屋の前に差し掛かった時、
後ろから不意に、ジャケットの裾を掴まれて立ち止まってしまう……
驚いて振り向くと、めいちょんが俯きながら、
俺のジャケットの裾を無言で掴んでいた。
「め、い、ちゃん?」
「おい、でくのぼう……
お前は何も出来ん、でく助や、だからなんもせえへんでええ……」
俺のジャケットを掴む手が小刻みに震えている、
暗闇に段々目が慣れて、うっすらと彼女の表情が見て取れた、
「だから……」
めいちょんは、まるで幼い女の子の様に泣いていた……
「でくのぼう、これは命令や、朝まで一緒にいてくれんか」
その時、また激しい雷鳴音が窓の外で響いた。
その音に驚いたのか、背中越しのめいちょんが俺に強くしがみついてきたんだ……
俺のジャケットに顔を埋めながら吐息のような囁きでこう言った。
「萌衣を一人にしたらぶっ殺すから……」
そう言いながら、めいちょんは自分の部屋のドアを静かに開けた……
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