我楽多屋 具無理にようこそ 四
その後のお風呂は修羅場だった……
裸を見てしまった俺を、彼女はマジで殺す気満々だった、
既に狂犬モードMAXになっためいちょん、
いや、さらに上の狼モードレベルまで発動してしまったんだ……
金切り声の悲鳴を上げた後、その場で服を来て、
クルリと踵を返し、台所の包丁を持ち出してきためいちょん
完全に据わった眼のまま、風呂場に取って返して来た……
「××× ぶっ殺す!××× 」
あまりの酷さに伏せ字になる位の最上級の罵詈雑言を浴びせながら、
一目散に俺のタマを取りに来る、
包丁の切っ先がキラリと光り、まるでヤクザ映画のドスの様に見えた、
俺はデッキブラシを刺叉のように使い、相手を牽制して難を逃れる、
「オドレのドタマかち割って、脳みそジャブジャブ洗って
全ての記憶なくしたるわ!!」
俺の記憶を完全抹消!
本気でそう思っているからシャレにならない……
「待て! 俺を殺したらトーナメント参加は出来ないぞ、
落ち着け!」
まあ、トーナメント以前に刑務所行きだか……
暴れ牛をなだめるように穏やかに語りかける、
怒りで我を忘れためいちょんの瞳から目は逸らしてはいけない!
熊と出会った時のように、視線を逸らさずジリジリと
安全な間合いを取る、
めいちょんの瞳の色が怒りのレッドからブルーに変わる、
彼女が落ち着いてきた証拠だ、
チャンスだ、一気に攻め込もう、
「あれは不可抗力だ、俺は風呂の掃除をしていただけだ!
決して萌衣ちゃんの裸が見たかった訳ではない」
めいちょんは包丁を構えた手を止め、無言のままだ、
よし! 良い調子だ、
「俺は小ぶりな胸など見ていない!」
あっ…… しまった、うっかり失言した。
「がるるううっ」
まさに狂犬のように、めいちょんが腰だめした包丁を手に、
俺の心臓目がけ、全体重を乗せて突進してくる、
俺はデッキブラシを振りまわし、先端に付着した水分を飛ばし、
相手の視界を奪った、
彼女が一瞬、怯んだ隙にブラシで何とか包丁をはたき落とす、
更に体勢を崩しためいちょんを、長いブラシの柄で組み伏せ、
そのまま馬乗りになった状態で、何とか動きを封じ込める。
上になる俺を見上げ、茫然とした表情のめいちょん、
次の瞬間、彼女はポツリと呟いた……
「ああ、腹減った……」
その言葉を聞いて、一気にお互いの緊張感が緩んだ、
「くっ、あははははっ!」
俺もめいちょんもその場でひとしきり、笑い転げた後、
すっかり穏やかな表情に戻った彼女に、こう切り出した。
「ご飯の用意しよっか?」
・
・
・
・
・
俺とめいちょんは分担して、買ってきた食材でビーフシチューを作った、
驚くことにめいちょんはかなりの料理上手だった、
ただし口の悪さは相変わらずで、
言うなれば、毒舌クッキングだ。
住居フロアにあるダイニングに運び、二人で食事を頂く、
「本当に美味い!」
「本当が余計じゃ、ボケ! そこは素直に美味いじゃろ」
めいちょんがこんなに料理が上手なんて意外だ……
こんな女の子らしい一面があったなんて、
すっかり満腹になり、満ち足りた気持ちになる。
俺は何気なく、質問してみる、
「ねえ、芽衣ちゃんの住まいはここなの?」
具無理の二階にはダイニングの左右に各部屋が有り、その一室のドアに、
meiとネームプレートが掛かっているのに、先ほど気付いたからだ。
「……」
めいちょんは何故か質問に答えず、黙り込んでしまった、
何か、まずい事を聞いてしまったようだ……
俺は慌てて話題を変える、
「そうそう、ご馳走してくれたお礼をしたいんだ、
ちょっと待っててくれる……」
ダイニングを後にし、階段を降りて店舗からある物を借りてくる、
不思議そうな表情のめいちょん、
「何を始める気や……」
俺の片手にはアコーステックギター、お店に有ったのを見つけていたんだ。
ギターのペグを廻し、チューニングを合わせる、
弦は錆び付いているが何とか弾けるだろう、
ダイニングの椅子に腰掛け、ギターを構える、
アルペジオでイントロをつま弾く……
「この曲は……」
めいちょんも曲に気がついたみたいだ、
上下のストロークを繰り返しながら、弾き語りで歌い始める、
「あの頃、夜になれば~
星の瞬きの下で、僕らは語り合ったね~
今日、あった出来事を~ 」
そう、土偶男子のエンディングテーマだ、
バラード調のトーナメントのもう一つの課題曲だ、
「たわいのない~ 日常が~
僕らにはかけがえのない宝物だった~」
久しぶりに弾くギターは、ミスピッキングも多いが、
少しでも彼女に、俺の感謝の気持ちが伝わってくれたら嬉しい……
しばらく演奏に耳を傾けてくれる彼女……
急に椅子から立ち上がり、俺の近くまで歩み寄ってきた。
目を瞑り、すうっ、と深呼吸をして、しなやかな猫のように全身を伸ばす、
そのまま曲に合わせてダンスを始めたんだ……
あのステージで見せた攻撃的なダンスでは無く、
まるで祈るように、ゆっくりとしたテンポで丁寧にステップを刻む、
腕の動きがまるで、俺のギターの伴奏者のように見えた、
その優雅な動きに見とれて、演奏が止まってしまわぬよう、
正確なストロークを心がける。
めいちょんは本当にダンスが好きなんだな……
言葉は交わさなくとも、こうしてセッションしていると
彼女の想いが伝わってくる。
外では雨風がドラムのリズムのように、激しく窓を叩いていた、
雨が一層、強くなってきている、
俺達はセッションに夢中で、その事に気が付かないでいたんだ……
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