我楽多屋 具無理にようこそ 三

 めいちょんの夕飯をご馳走してくれると言う提案に、若干の不安も覚えつつ、

 具無理閉店後、近所のスーパーに二人で買い出しに出掛ける。

 徒歩圏内に、以前は二軒のスーパーマーケットがあったが、

 住宅地にあった母の店と言うスーパーは閉店になり、

 この界隈、唯一のスーパーみやもとに向かう、

 具無理のある通り沿いで、おなじみの石坂文化堂前を通り過ぎ、

 中総高校の生徒も利用するバス停がある。

 いつもは生徒でごった返すバス停前も、休日の今日は閑散としている、


 めいちょんの格好は店番のままで、トップは白いポロシャツで、

 アンダーはミニスカートに見えるが、キュロットパンツと

 前掛けのエプロンをしている。


 傍からみたら仲良く買い出しに来た、若いカップルに見えるかもしれないな。

 俺はそんな想像をして、思わず吹き出しそうになった……

 歩道ですれ違う人々も、まさかこの少女が口を開けば、

 極道顔負けの毒舌狂犬娘とは、夢にも思わないだろう、

 黙っていれば、虫も殺さない可憐な乙女に見えるから末恐ろしい。


「んっ? オドレ、何ニヤニヤしとるんじゃ!気色悪い奴っちゃな」

 俺の表情に気が付き、めいちょんの鋭い罵声が響く。

 すれ違いざまの若いサラリーマン風の男性が、驚いて我々から飛び退くのが分かる、

 それはそうだろ、アイドル顔負けの可憐な美少女から発せられた

 セリフとは思えないからな、俺も最初は寝込む程ショックだった……

 まるで誰かオッサンが吹き替えをしているみたいに、

 狂犬モードのめいちょんはドスの効いた声になるんだ。


 スーパーに到着し、買い物籠を片手に、めいちょんの後に続く、

 まずは青果コーナーだ、威勢の良い、八百屋の大将が俺達に声を掛けてくる。


「綺麗なお嬢ちゃん、今日はキャベツが安いよ!」

 めいちょんはその言葉に、最上の笑顔で答えた、

「えっ、綺麗なんて、萌衣照れちゃう……」

 頬を赤らめ、胸の前でお財布を握りしめる動作に、八百屋の大将もイチコロだ、


「え~い、お嬢ちゃんならサービスしちゃうよ!」

 プロ過ぎる…… 普通の何倍もサービスして貰う術を心得ているんだ。

「じゃあ、キャベツをもらおうかしら」

 鼻の下が伸びっぱなしの大将が商品を渡しながらこう言った。


「彼氏さん、羨ましいね、こんなカワイイ彼女連れて」

 俺を彼氏と言ったセリフを聞いて、めいちょんの目が狂犬モードに変わるのを、

 俺は見逃さなかった、恐ろしい…… 大将、それはアカン奴や。


 その後、各フロアで同じ事を繰り返し、俺達の買い物は終了した……


 買い物の内容を見ても、めいちょんが何を作るか想像出来なかった、

 まさか、闇鍋でも作るんじゃないだろうな?

 狂犬モードの彼女を見ていると、その想像があながち間違いでもなさそうで

 シャレにならない。


 店の外に出ると、先程まで晴れていたのに、ポツポツと雨が降ってきていた、


「でくのぼう、店までダッシュや!」

 傘の無い俺達は激しくなる雨の中を走り出す。


「は~~、びしょびしょや、おい、食材は大丈夫だろうな?」

 シャツもびしょ濡れの彼女が息を切らせながら問いかける、

 俺は両手の買い物袋を差し出す、走ってきたが中身は大丈夫のようだ。


「このままじゃ、風邪ひいてしまうわ、おい、でく助、風呂沸かしてくれんか」

 いつの間にか、でくのぼうから、でく助に呼び名が変化している、


「晩飯の前にひとっ風呂浴びるか……」


「じゃあ、風呂の用意してくるよ」

 二階に上がり、住居スペースの一角にお風呂がある、

 レトロな具無理に、ピッタリの檜の浴槽、壁には富士山まで描かれていて、

 風情がある作りだ。

 掃除も行き届いているので浴槽掃除の必要はなさそうだ、

 ボイラーに火を入れ、浴槽にお湯を張る、

 濡れないように腕とズボンの裾をまくり、壁と床の掃除を始める、


 風呂掃除と言えば、天音に良く叱られることがある、


「おにいちゃんは、いつも入る専門で、掃除をするのは天音なんだから」

 って言われてしまう、

 今回は他人の家だし、綺麗にするか!

 デッキブラシに洗剤をつけて、ゴシゴシと床を拭き始める、


 と、その瞬間、脱衣所に駆け込む足音と共に、ガラリと

 浴室のドアが勢いよく開いた、


 デッキブラシを握る手が凍り付く……


 めいちょんが真っ裸で戸口に立っていた、

 見てはいけないとは思いつつ、殆ど見てしまった……

 生まれたままのめいちょんの裸身を、


 小ぶりだが、形のいいおっぱいが目に飛び込んでくる、

 そしてダンスで鍛えた良く引き締まったウエスト、

 その下のおへそ、

 さらにその下の……


 その場所はかろうじて片手で隠されていた……


「い、い、いっ」

 めいちょんの顔がみるみる赤くなり、

 いや、赤いと言うより青ざめてみえた、


「いやあっ~~!!」

 めいちょんの悲鳴がお風呂中に反響する……



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