我楽多屋 具無理にようこそ 二

「じゃあ、俺は会合に行くから、後はヨロシク!」


 スーツに着替えた具無理のマスターはさっさと出掛けてしまった……


 後に残された俺とめいちょん、

 無言のまま、カウンターを挟んで対峙する二人、一触即発の空気が流れる、


 は~~っと深い溜息をつくめいちょん

「よりによってオドレかい、マジ胸くそ悪いわ……」


 口の悪さトーナメントが有ったらぶっちぎりで優勝だろう、


「最悪、最悪、最悪、最悪、、あ~~あり得ない!」

 両手で頭を抱え、髪を掻きむしる彼女、


 こっちだって最悪だ、この狂犬娘と店番?

 あり得ないとは俺のセリフだ!


 ガマと蛇の睨みあいの様にジリジリとお互いガンを飛ばしあう、

 普通にしていれば飛び切りの美少女が、眉間に皺を寄せて

 俺に睨みを効かせている、

 何の罰ゲームなんだこれは……


 お互い、一歩も退かず、睨み合いは続く、


「ちょっと、これ幾らですか?」

 お皿を手にお客さんが萌衣に声を掛ける、


「は~い! お待ちくださいね、まぁ、これはすっごくイイ物ですよ!

 お客様、お目が高いですね」

 めいちょんの二重人格炸裂だ、人はここまで一瞬で変われるのか?

 このままでは俺、女性不信になっちゃいそう……


 その後も、お客さんの対応に追われ、喧嘩している暇が無いほど

 忙しかった……


 意外にも萌衣は事務的ではあるが、的確に俺に指示を出し、

 お店を仕切ってくれた、

 細かな値付けが分からない俺に替わって、お客様対応をする萌衣、


「ほら、ウスノロ、さっさと梱包しろ!」

 相変わらず、口汚いのには辟易するが……


 やっと忙しさのピークは越え、茫然と椅子に腰掛ける俺、


「やっぱ、でくのぼうは棒やな、糞の役にも使い道あらへん」

 疲れ果てて、萌衣の毒舌にも返す気力も無い……


「ちっ、ヘタレが!」


 根性無しと言わんばかりに、虫けらを見る目で俺を見下す、


 その険しい横顔を見ていると、自分が情けなくなるが、

 萌衣が一心不乱にノートにメモしている事に気が付く。


「それは、何を書いているの?」

 何故か、素直なトーンで言葉が出た、


「オドレの低脳な脳みそでは理解出来ひん、仕入れの帳簿や」


 先程から気になっていたんだが、具無理の商品には値札が無い、

 だからお客さんが必ず値段を聞いているんだ、


 俺は初めてなので値段が分からず、しどろもどろになる場面が多かった。


 萌衣の値付けは的確で、更にオマケを付ける、

 常連のお客さんははそこに喜んでいた。


 高校生にして正に商人と言う風格が漂う、


「ねえ、何で、具無理の商品には値札が無いの?」


 萌衣は分かってないなと言う表情で、こう言った、


「オドレは商売のイロハを分かってないんじゃ、

 値札が有ったらそこから値切られるやろ、

 値札が無ければあなただけに特別サービスって体で

 顔を見ながら駆け引き出来る、

 結果的に顧客満足度は高くなるんや」


 えっ? そんなとこまで考えてるの、


「じゃあ、オマケは何なの? 最初のお客さんがお皿を一枚買った時、

 オマケで三枚も同じお皿を付けてたじゃない、

 赤字にならないの?」


「だからオドレはド素人っていうんじゃ、

 あのオマケで一見さんが感動してお店のリピーターになる、

 長い目で見れば、収益は上がるんや」


 凄い、同じ高校生なのにここまで商売を出来るなんて……


 ドヤ顔のめいちょん、

「まあ、全部おじいちゃんの受け売りだけどな」


「凄いよ! 本当に、感動した、良かったら俺にもレクチャーしてくれない?」


 お世辞で無く、本心から言葉が出た、


 満更でもない萌衣、

「まあ、ボンクラに出来るか分からんが、暇つぶしにはなりそうやな」


 その後、帳簿の付け方や、お客様の心を掴む、トーク術について

 教えて貰った、その中で心に残ったのは共感トークだった。


 具無理のマスターレベルになるとセールストークは全くしない、

 世間話をしながら、いつの間にか購入させてしまうらしい、

 そのテクニックは共感で、駐車場に車が入った瞬間からトークは

 始まっている、そのお客様の車のナンバー、出身地、名字、

 さりげなく聞き出し、自分との共通点を見つける、

 例えば同じ出身地と話を切り出せば、相手はこちらに親近感を

 抱いてくれる、

 ただし、アコギなセールスと違うのは、具無理では相場の価格より

 遙かに安い値段設定らしい、

 これはマスターの主義で、薄利多売、他の骨董店の半額で

 購入できてしまう、

 だけど結果的には収益は他店の数倍の売り上げを誇る、


 それはリピーターと口コミでの紹介来店だ、

 人は自分が良かったと思うお店を誰かに勧めたい、

 もしくは一緒に連れて行きたいという感情がある、

 具無理は正にそう言うお店だ。


 俺は夢中で萌衣の話に聞き入った

 いつの間にか外はすっかり暗くなってしまった。


 店の閉店は午後七時のはずだ、片付けを手伝い、

 帰り支度をしている俺に、萌衣が声を掛けてきた、


「まあ、ヘタレなりに今日はよう頑張った、晩飯は何かおごっちゃる」


 意外な提案に薄気味悪さを感じている俺、

 背中をバーンと張り倒しながら、めいちょんが豪快に笑った。

「何も取って食いはしないから安心しな!」


 一瞬、可愛らしい萌衣ちゃんの顔が現れた気がした、


「それとも、せっかくの飯が食えないとでも言うんか?」

 狂犬の顔に戻っためいちょん、

 やっぱり、可憐な萌衣ちゃんは俺の気のせいだ……


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