鴨川いれぶん

「萌衣のお部屋にようこそ……」

 繋いだ手を軽く引かれながら、部屋に入る、

 停電の為、室内は暗いままだが、カーテンを閉めていない窓から、

 微かな薄明かりが差し込んでいた、

 窓の外の街並みにも灯りが灯っていない、

 どうやらこの付近一帯が停電なんだろう。

 先程よりも勢いを増した風雨が窓を揺らす……


「ちょっと待っててね……」

 萌衣ちゃんが部屋の奥に進み、家具の引き出しを開け、

 何かを探す物音が聞こえる、

 暗闇でも自分の部屋なので、おおよその位置が分かるんだろう。


「あった!」

 萌衣ちゃんが、探し当てた物をこちらに運んで来て、

 カチリとスイッチを入れる。


 真っ暗な部屋にほのかな灯りが灯る、

 キャンプで使うミニランタンのようだ、

 俺と彼女の周りだけ、光の空間が暗闇に浮かび上がる、

 彼女の表情がやっと見えた、お風呂上がりの頬はうっすらと上気し、

 バスタオルで念入りに拭いたはずだが、ドライヤーの使えなかった

 肩まで降ろしたロングヘヤーの先端が濡れているのが分かる。


「萌衣ちゃん、寒くない?」


「うん、何とか大丈夫、君がお風呂に入れてくれたお陰で暖まったよ」

 でも濡れた髪のままで風邪を引かせちゃいけない……


 ランタンに照らされた室内を見回す、

 古い日本家屋の部屋は六畳位のスペースで、畳の上にフローリングマットを

 敷いてあり、シングルサイズのベットが窓際に置かれ、

 その横に小ぶりなデスクと、備え付けだろうか大きめのクローゼットがある。

 壁にはポスターだろうか、何枚か張ってある、

 暗くて見えないが年頃の女の子なので、アイドルのポスターか何かだろう……


「萌衣ちゃんだけでもベットに横になれば……

 湯冷めして風邪引いちゃうといけないから」

 空調の効かない部屋はフローリングの床から底冷し、

 体温を奪ってくる、俺でも少し寒気がする位だ、


「でも……」

 萌衣ちゃんが困惑した表情を浮かべる……

 次の瞬間、目が眩む程の光が差し込み、部屋中を照らし出す、

 暫くの後、時間差で雷鳴の轟音が響き渡る。


「キャッ!」

 悲鳴と共に耳を両手で塞ぎ、ベットに倒れ込んでしまう……

 ベットの上で小刻みに身を震わせる彼女、

 その姿を見て、俺は先程から疑問に思った事があった、

 あの強気な狂犬娘の萌衣ちゃんが、何故こんなに雷を怖がるのか?

 いくら何でも人が変わったみたいになるのは、異常に感じる、


「萌衣ちゃん、何故そんなに雷を怖がるの?」

 思い切って質問をぶつけてみた、


 彼女の肩の震えが、俺の問いかけで止まった……

 ベットに転がったミニランタンの灯りが彼女を照らし出し、

 やっとの思いで顔を上げる

 灯りに照らし出されたその両頬には、涙の跡がはっきり見て取れた。

 泣いている彼女の表情を、俺は不謹慎だが綺麗だと思ってしまった、


 意を決した様に彼女が語り始める……


「これは罰なの、雷が鳴る度、私は罰を受けるの……」

 彼女の言っている意味が分からなかった、


「雷の夜に、お父さんとお母さんを死なせたのは私のせいなの……」


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