BEAT SWEET
「柚希! 何故お前が舞台にいるんだ……」
スポットライトを浴びながら、広いステージ中央に立っているのは
俺の初恋の人、二宮柚希だった……
白い着物のような衣装が、あの十五夜の夜を彷彿させる。
「もしかして、柚希ちゃんなの? 」
絶句したまま、俺の隣で立ちすくむ天音。
天音は俺と違い、成長した柚希とは会っていないはずだ、
何故、すぐに彼女と分かったんだろう、
そんな疑問も、その時の俺には考える間も無かった……
舞台中央の柚希は俯いたまま、身動き一つしない、
オーケストラとバンドのアンサンブルが淀みない流れのまま、
最高潮に駆け上がっていく、
次の瞬間、フッ、と音楽が止まる。
柚希が片手を上げ、指揮者のバトンのようにゆっくりと手を振り始める、
それが合図だった、ステージ左右から同じ白い衣装を纏った
少女達が一斉に駆け込んできた、
柚希を含め、総勢六人の少女が、良く訓練された動きで舞台に整列する。
柚希の隣の女の子がインカムマイクで語り始める、
「県立 君更津南女子高 ダンス部です!
本日はこのような素晴らしい機会を頂いて、本当にありがとうございます、
部員を代表して、本多会長様に御礼申し上げます」
部の代表だろうか、健康的な小麦色の肌、毛先に軽くウェーブの掛かった髪、
柚希より頭ひとつ分、背が高い、礼儀正しい言葉使いが育ちの良さを感じさせる。
「部長の古野谷萌衣です、私の隣が副部長の二宮柚希、
彼女に今日の演目を説明して貰います」
柚希が副部長? 一体何が始まるんだ……
「はい、今日の演目は……」
柚希がマイクで語り始める、今晩の柚希は女の子モードのようだ。
「土偶男子のテーマ曲 炭水化物が無ければ今でも縄文時代 です! 」
その掛け声と共に音楽が再開する、
やっぱりあの曲だったんだ……
天音の男装女子発覚の部屋で聞いた、土偶男子のイメージソング
んっ? 何で大会の課題曲を彼女達が演るんだ……
俺の驚きは、その後の光景を見て何倍にも膨れ上がったんだ。
部長の萌衣ちゃんの合図で一斉にフォーメーションを決める部員達、
その中でも柚希の動きは素人の俺が見ても抜きん出ていた、
天音に見せて貰った土偶男子のMVの動きとは違うが、
オリジナルで振り付けられた所作からは、まるで舞台上に
一陣の風が吹いているに感じさせた……
あたかもそこに縄文時代の貝塚が存在するかのように、
いにしえの生活感がそこにあったんだ……
凄すぎる、踊りだけでここまで表現出来るなんて、
頭から、指先、そしてつま先まで全身を使って、一本の幹のように
なったと思わせたら、次の瞬間、春一番に飛ばされそうな
可憐な花のように柔らかく揺れる肢体。
スポットライトに照らされ、彼女達の額に流れる汗まで尊く、輝いて見えた。
俺達は椅子に括り付けられた様に、身動き一つ出来なかった……
彼女達のパフォーマンスに圧倒されてしまったんだ。
同じ高校生なのが信じられない、
曲も終盤に差し掛かる時、彼女達は一糸乱れぬ動きで、
舞台中央に集まり、組み体操の様に華麗なタワーを作り、フィナーレを飾った。
「ありがとうございました!」
部員全員で深々とお辞儀をする、
そして俺達が驚愕する事を柚希が言った。
「土偶男子フェスにも私達、南女ダンス部でエントリーします!」
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