Xジェンダー

 柚希が変貌してしまった夜が明けた……


 一夜明けて、静かな村は大騒ぎになっていた、

 あの不良グループが家に帰ってこないと、親御さん達が警察に捜索願いを

 出していたからだ。


 明け方、神社で発見された彼らは、皆、問いただされても、

 その答えは要領を得ず、村の大人達を困惑させただけに終わった……


 俺達にとっては幸いな事だった、柚希のような華奢な女の子に

 完膚無き程、叩きのめされたとはプライドの高い慎一達にとっては、

 口が裂けても言えないだろう。


 柚希が元に戻って気を失ってしまった後、彼女を介抱し、

 俺の家に連れて帰ったんだ。


 子猫は天音とお麻理にお願いして保護して貰った、

 動物好きな、お麻理の家で一時的に子猫を預かってくれる事になった、


 天音の部屋のベットに柚希を横たえていると、

 心配そうに親父が部屋に入ってきた。


「柚希ちゃんの家に連絡したけど、お母さんはお仕事で不在だった……

 留守電に事情は吹き込んでおいたから、大丈夫だと思うけど」


「親父、柚希が急におかしくなっちまったんだ……

 まるで何かに取り憑かれたように、男みたいになったんだ」


 まだ、あの夜見た事が自分の中で理解できない、

 何で、柚希は変貌してしまったんだろう?


「宣人、その時起こったことを詳しく聞かせてくれないか?」

 親父が神妙な面持ちで俺に聞いてきた、

 俺はあの神社で起こった事を詳細に話し始めたんだ……


 親父はしばらく、俺の話に耳を傾け、思案した後、語り始めた。


「宣人、お前にはまだ難しい話だが、

 柚希ちゃんはXジェンダーかもしれない……」


 Xジェンダー? 小学生の俺には初耳な単語だ、

 戸惑う俺に構わず、親父が話を続ける、


「お父さんの大学で、その分野を専門的に研究している同僚がいるんだ、

 詳しく調べて貰ったほうが良いんじゃないかな」


 ベットに横たわり、微かな寝息の彼女を横目に親父が提案する。


「Xジェンダーって何?」

 聞き慣れない単語に思わず、質問していしまう、


「宣人、この世には男と女しかいない訳じゃないんだよ、

 生まれながらに女の子でありながら、自分の性別に違和感を覚える人、

 逆に生まれながらに男の子でありながら違和感を覚える人、

 宣人、お前が毎日学校に背負っているランドセルは何色だ?」


「黒のランドセルだよ、何でそんな事聞くの?」


「女の子のランドセルは何色?」


「そんな事、簡単だよ、赤やピンクが多いかな」


「何で、その色なんだか考えたことはあるか?」


 親父の質問に俺は戸惑った……


 男が赤やピンクだったら学校でからかわれる、女みたいだって、


「それが答えだ、宣人」


「男らしい、女らしいとは古い固定概念で決められたものなんだ……

 男の子でも、ピンクを持ちたい人、女の子でも黒を持ちたい人、

 これからの世の中は、多様性の時代なんだ」


 何となく、親父の言っている事が理解出来た、

 柚希は病気や狐に取り憑かれた訳では無く、彼女のパーソナリティが

 そうさせたに違いない、


「その中でもXジェンダーとは、最近、定義された分野なんだ、

 女の子と男の子の性別で行き来するそうだ、

 今日は女の子でも何かの拍子で男の子に入れ替わってしまう……

 決して多重人格ではない」


 親父が俺の肩に手を置き、ポンポンと軽く叩く、

 俺を安心させる時のおなじみのジェスチャーだ。


「柚希ちゃんの親御さんに許可を頂いてから、診断してもらおう」


 その時、俺達は気が付いていなかった、

 いつの間にか帰ってきた天音が、半開きだったドア越しに

 俺達の話を聞いていた事に……

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