でいどりーむ

「お前、誰だ? 気持ち悪いから触るんじゃねえ!」

そう言い放ちながら、両肩に置いた俺の手を勢いよく振り払う柚希、

汚い物に触られたような激しい嫌悪感が、その双眸に色濃く浮かんでいた。


「俺が分からないのか、宣人お兄ちゃんだよ……」

その変貌ぶりが信じられなくて、無様だと思いながらも柚希に近寄ろうとする、


「お前なんか知らないっ、それ以上、僕に近寄るな!」

僕? 柚希は一体どうなっちまったんだ……

あんなにも女の子らしかった彼女では無い、まるで何かに取り憑かれたようだ。

そう、狐にでも憑依されてしまったかのように見えた……

声までも野太くなり、まるで男だ、その姿を見ていたら急に視界が滲んできた、


俺は涙を流している自分に驚いた、あまりのショックを受けると人間は、

防御の為だろうか、勝手に涙を流す事を初めて知った……


俺を睨みつける柚希に、掛ける言葉が出てこない、

そうだ! あの約束は覚えていないだろうか?

俺はある賭けに出た。


傍らに横たわり、安心して穏やかな表情の子猫、

良かった! 手荒に扱われたが怪我はしていないようだ。


俺はそっと子猫を抱き上げ、柚希に近寄ってこう言った、


「柚希、お前が助けた子猫だよ、他の子猫も無事だ、良かったね」

穏やかに彼女に語りかける……


険しい表情を崩さない柚希に変化は見られない、

やっぱり、駄目か……

明るく俺達を照らしていた満月が雲に隠れ、

辺りがいつもの闇夜に包まれた、次の瞬間。


「ミャアッ」

柚希の足元に他の子猫が集まって来た!

やっぱり柚希は彼女のまま、変わってはいないんだ、

子猫が慕い、懐いているのが何よりの証拠だ!


足元の子猫を見て、彼女の表情に変化が起こった、

今がチャンスだ!


「柚希、子猫を一緒に育てるんじゃなかったのか?」

先程の約束を叫ぶ!

彼女の表情が変わった、眉間に皺が刻まれ、

ぶるぶると細い肩が小刻みに揺れるのが見て取れた、

俺は更に続けて叫んだ。


「俺のお嫁さんになってください!」

俺の渾身の叫びを聞いた柚希は、いつも見せる困った眉の動きになった、

そして俺の大好きな、可愛い頬のえくぼを見せながら可憐に微笑んだ……


「宣人お兄ちゃん?」

やった! 彼女に戻ってくれたみたいだ、

喜んだのも束の間、柚希がゆっくりとその場に倒れ込む、


「柚希!」


慌てて駆け寄る俺に、驚いた子猫が彼女の周りから一斉に飛び退いた……

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