ジェミニ KとS

「お集まりの皆様、どうぞご注目ください!」

 突然、大音量で場内アナウンスが流れる、

 声の方向を向くと、中央に設えられたステージに立っているのは……

 本多会長? その隣に居るのは執事の皆川さんだ。


「本日は、我が本多グループのスパリゾートにようこそ!

 中総高校、歴史研究会の諸君には、日頃の疲れを癒やし、

 今日一日、大会に向けて鋭気を養って欲しい」

 肖像画の一件で、あれだけ俺達に反目していた本多会長の言葉に、

 俺は驚きを隠せなかった……


「お祖父様とは、あの事件以来、二人で良く話すようになりました、

 先日も天音ちゃんと弥生ちゃんが来てくれて、今までの経緯を

 説明してくれ、歴史研究会の活動が決して伝統ある中総高校を

 汚す物ではない事に、お祖父様も理解してくれて今後の応援を

 約束してくれました」

 さよりちゃんが嬉しそうに壇上の会長を見つめる、


「多分、今回の招待はお祖父様なりに、お詫びの気持ちが込められています、

 あの性分ですから決して口にはしませんが……」

 そうだったのか、あの本多会長が俺達を応援してくれるなんて、

 以前では考えられない事だ……


 スピーチを続けようとする本多会長に、執事の皆川さんが何か耳打ちする、

 その途端に、本多会長が今まで見せたことの無い笑顔になる。

「そうじゃな、年寄りの話は短い方が若者に好かれる秘訣だ、

 そうそう、最後に中総高校PTA会長として、歴史研究会の今期の

 バックアップを約束して終わりとしよう」


「やった!」

 いつの間にか現れた顧問の八代先生がガッツボーズをする、

 サングラスの奥がキラリと輝く、本当に現金な人だ……


 会長の挨拶が終わり、壇上から退席しながら、執事の皆川さんが

 俺に向けて、会釈を送ってくれた、

 本多邸突入時にも全力で助けてもらったっけ、

 本多会長に背いた件も不問になって本当に良かった。


 夏を感じさせる音楽がスパリゾート施設内に流れ始める、

 俺達、歴史研究会全員が招待されたのは、本多グループの経営する

 一大レジャー施設だ、東京湾アクアラインが一望出来る海沿いに

 プールはもちろん、水着を着たまま入れる温泉、宿泊施設、

 そしてダンスショーも有名だ、アクセスの良さから他県や海外からの

 お客も多いと、情報通の弥生ちゃんから教えて貰った。


 いつもは入場制限が出来るほど盛況だが、今回は本多会長の計らいで

 特別に俺達、関係者のみの貸し切りになっている。


「皆さん、お茶の用意が出来ましたよ!」

 真菜先輩がプールサイドにしつらえられたテーブル越しに

 俺達に声を掛けてくれる。


 大きなパラソル下のテーブルには真菜さんだけではなく、

 既に何人か座って俺達を迎えてくれた、


「あっ、紗菜ちゃん、香菜ちゃん、来てくれたんだね!」

「さよりちゃん、今日は招待してくれてありがとうございます!」

 花井姉妹ががユニゾンで答える、双子だけあっていつ見ても息がピッタリだ。

 二人の水着は…… あれ? 普通のスクール水着だぞ、


「今日の二人の水着、すっごくカワイイし、珍しいけど、どこで買ったの?」

 天音が興味津々で質問するが、俺には普通の紺のスク水にしか見えないけど?


「天音、この水着のどこが珍しいの?」

「お兄ちゃんは本当にわかってないね、ウチの高校の指定水着って覚えてる?」

 中総高校の学校指定水着は…… はっ!全然違う、制服自由化とも

 関連がある事だが、旧来の身体のラインが出るタイプは中学、高校とも

 絶滅したんだっけ……

 二人の着用している物は昔懐かしい前面に水抜き穴が開いているタイプだ。


「そうよ! 胸からおへそ周りに流れるプリンセスライン、そして

 機能性として付けたつもりが最大の萌えポイントになる水抜き穴

 さらに完璧なのが胸に付けた白い名前ゼッケンのコントラスト!」

 ヤバい、天音がまたカワイイ物モードに入って暴走してしまう……

 話を逸らさなきゃ、


「でも何で名前は花井って名字だけじゃないの?」

 良い所に気がついたとばかり、紗菜ちゃんが答える、

「名字だけだと、私達双子は見分けが出来ないので昔からフルネームなんですよ」


「そうそう、親でも着替えのパンツ間違える位だからね!」

 香菜ちゃんが子供のように何故か得意満面になる。

「こら! 香菜、また余計な事しゃべらないの……」

 紗菜ちゃんが真っ赤になった顔を気にしながら、香菜ちゃんをたしなめる。


「私達の母親は昔から物持ちが良くて、このスクール水着は母のお下がりを

 譲り受けたんですよ、」

 二人のお母さんは二年の担任、花井先生だ、確か実家はお寺を営んでいると天音に

 聞いた事がある、その関係で物を粗末にしないんだろう……


 確かに胸の名前があると二人の見分けが付き易いな、

 天音のカワイイ物への暴走も困るが、スクール水着姿の花井姉妹を見ていると

 妹の萌える気持ちも判る、只でさえ美少女な二人に、この水着のアイテムは

 反則級の可愛さだ……


「さあ、皆さんお茶が冷めてしまいますよ、席に着いてくださいね」

 真菜先輩が優しい口調で、そこに居るみんなをテーブルに誘う、


「みんな席に着きましたか?」


「ちょっと待って、もう一人来る予定なの……」

 天音が何故か俺に向けて、悪戯っぽく微笑みを浮かべた、


 次の瞬間、女の子が慌てて駆け込んで来た、


「お待たせしました……」

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