愛は風まかせ
「こっちだ、早く!」
執事の皆川さんに案内され、裏口から邸内に入る。
邸内に侵入した途端、詰め所にいる制服姿の警備員が視界に入った……
思わず、身を固くしてしまう。
「安心してくれ、彼らは我々のシンパだ」
皆川さんが彼らに片手を挙げながら目礼を送る、
「邸内の状況はどうだ?」
「ハッ! 正面玄関を中心に本多会長直属チームが守りを固めています」
敬礼をしながら実直そうな隊員が答えた。
「会長直属チームは、警察OBや自衛隊上がりの精鋭で編成されている、
まともにやり合ったら多勢に無勢だ……
出来れば遭遇したくないがな」
何で、個人宅にそんな軍隊みたいな警備が必要なんだ……
どれだけ、用心深いんだ本多会長は、
「さよりお嬢様の部屋へのルートは一つしか無い……
その直前のフロアには数十人の隊員が配備されているだろう」
皆川さんが固い表情で俺達に告げる。
「我々が活路を切り開くので、君たちでお嬢様を連れ出してもらう……
途中のルートで二班に分かれる、会長直属チームはこちらに
引きつけるので、その隙のワンチャンスを狙ってくれ」
「皆川さん達はどうなるの?」
天音と弥生ちゃんが心配そうに尋ねる、
「俺達の事は心配しないでくれ……
なあに、いくら本多会長と言えども取って食われる事はないよ」
皆川さんが薄く微笑みながらウインクで答えた
「これからも、さよりお嬢様の良き友人でいて欲しい……
最近のお嬢様に笑顔を取り戻してくれたのは君たちだから」
「皆川さん、皆さん、どうかご無事で……」
「隊長、Bルート経路の監視カメラ、暗視センサー、警報全てを
ハッキングにより停止させました、監視カメラにはダミー映像を
流してあります」
「よし、これで気付かれずに侵入出来る、
猪野君、行くぞ!」
皆川さん達の後に続き、さよりちゃんの部屋に向かう……
長い回廊を抜けてしばらく走り、エレベータールームに前に
到着する、ここまで敵対する隊員との遭遇は無い、
先に皆川さん達がエレベーターに乗り込む、
「ここでお別れだ……」
皆川さんが小声で俺に話しかける、
お互いアイコンタクトのみで気持ちが伝わるのが分かる……
エレベーターの扉が閉まり、上昇を示すランプが次々に点滅する、
さよりちゃんの部屋ある階にランプが止まる、
俺達は階段の別ルートでさよりちゃんの部屋に向かう。
長いらせん階段を上ると、目的の階を示す重そうなドアの前に立つ。
ドア越しに、激しい物音が遠くから聞こえてくる……
多分、皆川さん達が敵を引きつけてくれているんだろう。
何とか無事であって欲しい……
冷たいドアのノブに手を掛ける、
重い扉をなるべく音を立てないように開く、
隣のエレベータールームには人影が居ない、
さよりちゃんの部屋はすぐそこだ。
待っていてくれ、
もうすく救い出せるよ……
部屋のドアを開け、室内にまず俺だけ身を滑り込ませる、
次の瞬間、俺の見た光景は……
「……!?」
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