遍路

 俺達が来るのを待ち構えていたように、音も無く門が開いた……

 不穏な空気に思わず身構えるが、何も起こらない。


「中に入れって事じゃない?」


 天音が小声で俺に話し掛ける。


 俺は片手で二人を制しながら、先に邸内に踏み込んでみる……


 次の瞬間、庭先から屋敷に向かって、まるで夜の空港の滑走路みたいに、

 LED照明のガイドラインが灯った。


「えっ!? 何これ……」


 驚きの声を思わず洩らしてしまう。


「全て、お見通しって事か……」


 背筋に冷たい物が流れる、これは罠かもしれない、

 だけど先に進まなければ始まらないんだ。

 思い切って歩み始める……

 しばらく歩いただろう、どれだけ広大なんだ、このお屋敷は

 俺達が歩いたその後ろから、順番に足元の照明が消えていく……

 動体センサーが仕込まれているみたいだ。

 当然、カメラでモニタリングもされているだろう。

 高くそびえるお屋敷に到着する。

 さあ、これからどう出るんだ、本多会長。

 いやがおうにも緊張が高まってくる……


 その時、俺はいきなり背後から口を塞がれ、一瞬で羽交い締めにされた。

 視界の隅で天音と弥生ちゃんも、黒ずくめの人物に捕らえられるのが見えた。

 これが力の差か?、なすすべも無く何も出来なかった……

 このまま、俺達は観念するしかないのだろうか。


「猪野君……」


 俺を拘束していた人物が、耳元に囁きかける

 この声は? 聞き覚えがある……


「皆川さん?」


 前回も俺達を助けてくれた執事の皆川さんだ!


「静かに聞いて欲しい、さよりお嬢様は、会長の言いつけで自室に軟禁されている。

 正面玄関から突破は無理だ。邸内の警備に気付かれないルートを案内するので、

 後を着いてきて欲しい……」


 いつものスーツではなく、警備の制服姿だ、声のトーンも低く、凄みを感じる。


「皆川さんは、俺達に協力して大丈夫なんですか?」


 何だか心配になって聞いてみる、


「さよりお嬢様は赤ん坊の頃から、お世話を担当させて貰っている身だ、

 たとえ会長に背いたとしても、お嬢様の笑顔だけは曇らせたくない…… 」


「皆川さん……」


 思わず、熱い物がこみ上げてくる。

 天音と弥生ちゃんも同じく感動しているのが分かる。


「さっ! 話は後だ、先を急ごう」


 皆川さんが部下に指示を出しながら、俺達を急がせる。

 いよいよ、クライマックスだ、邸内に裏口から突入する……

 さよりちゃんは無事だろうか?          

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