知りすぎていた男
俺達、三人は本多家の前に到着していた……
以前、日中に訪れた時とまったく違う表情で、高くそびえ立つ壁が
街灯に照らされ、黒く不気味な影を俺達に落としていた……
具無理のマスターがここまで車で送ってくれたので、
短時間のロスで済んだのは助かったが、時間帯はすでに二十時前だ。
マスターは今宮みすゞについて、もう少し深掘りしてみるとの事で
調査の為、店に戻っていった。
「お兄ちゃん、さよりちゃんの携帯はやっぱり繋がらない……」
天音が携帯を片手に暗い表情になる。
「もしかして、別の場所に連れて行かれたのかも」
その可能性も充分ありえる、俺の胸中にも暗い物が広がってくる。
まだ、さよりちゃんがここに居たとしても、あの本多真一郎が
簡単に会わせてくれるとも思えない……
「先輩! ケセラセラですよ、悩んだって仕方がないです、
あの白いベンチで教えてくれましたよね」
立ち尽くす俺と天音に、弥生ちゃんが明るく励ましてくれる。
ケセラセラ、なるようになるという意味だ……
弥生ちゃんと訪れた海岸の白いベンチで、語り合った時、
俺が教えてあげた言葉で、弥生ちゃんも
(ケサランパサランみたいで、かわいいですね!)と感心してくれたっけ。
何でも、弥生ちゃんの大好きな少女漫画で、謎の生物ケサランパサランが、
良く登場する作品があるそうで、何でも弥生ちゃんの名前の由来も、
少女漫画好きなお母さんが、その漫画が昔からお気に入りで
ヒロインの女の子にちなんだ名前だそうだ。
俺と弥生ちゃんの会話を、天音が横で微笑みを浮かべながら
黙って聞いている、天音なりにタンデムデートの成功を喜んでいるみたいだ……
そうだ! ここまで来て悩んでも仕方がないんだ。
結果がどうあれ、前に進むしかない……
意を決してインターフォンを押そうとした、その瞬間、
音も無く、重厚な門が開く、
俺達の動きなど、お見通しだと言わんばかりに
怪物のような黒い口を開けていた……
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