道標ない道

 責任編集 内藤純一

 その少女雑誌の表紙に書かれた文字。

 そして今宮みすゞ、

 男装の天音そっくりの肖像画……


 今、俺の中で点と線が繋がった気がした。


「マスター、これは……」


「宣人君、落ち着いて聞いて欲しい、今宮みすゞと内藤純一は

 この雑誌の対談がきっかけで、この後、恋に落ちて、結婚したそうだ……」


 具無理のマスターが雑誌のグラビアページを開きながら、解説してくれた。


「宝塚と人気を二分する東の歌劇団のトップスターと当代一のクリエイターの

 結婚は当時、大ニュースになったそうだ、

 ただし……」


 マスターがここから神妙な表情になる。


「女性の生き方の美を追究するあまり、純一は家庭にも厳しく、名家のお嬢様育ちの

 みすゞにはそれが耐えきれず、数年で離婚したと聞いている……」


「その後、純一は雑誌編集等の激務がたたり、重い病に倒れ、

 長い闘病生活に入り、千葉の館山で療養生活を送ったと記されている」


 あの海岸の別荘だ、あの記念碑のある海岸が純一終焉の場所なんだ……

 やっぱり、俺達と純一は接点があったんだ。


「でも、純一とみすゞは子宝には恵まれなかったと聞いている。」


 天音との関連はまだ謎のままだ……


「お兄ちゃん!」


 今まで黙って俺達の話を聞いていた天音が割って入る。


「この絵の事はよく分からないけど、お願いがあるの……」


 真剣な眼差しで天音が訴えかけてくる、


「さよりちゃんを助けに行かせて! 

 このままじゃ、転校させられちゃう……

 そんなの絶対に嫌」


「そうです! 先輩、私からもお願いします、さよりちゃんと

 離ればなれになるなんて、私も考えられません……」


 弥生ちゃんも同じ想いだ。


 だが、高校生の俺達に何が出来るだろう、

 相手は強大な権力を持って歴史研究会の前に立ち塞がっている……

 天音や弥生ちゃんを危険に晒させていいのか?

 沈黙する俺にマスターがおだやかに語りかけてくれた、


「宣人君、こんなに大事な仲間を助けなかったら、一生後悔するんじゃないかな?

 俺の年齢くらいになると、過去を振り返ってみると後悔ばかりなんだよ、

 そんな人生は君たちに歩んで欲しくない……」


「マスター……」


 その言葉に俺の腹は決まった。


「さよりちゃんを助け出す! そして転校もさせない、

 そして歴史研究会に入部して貰うんだ!」


 俺の言葉に天音と弥生ちゃんが大きく頷く。

 俺達には勝算は無いかもしれない……

 でも今はこの衝動を抑えきれないんだ。


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