知らず知らずの内に
「さよりちゃんが転校させられちゃう……」
天音からの電話は、ただならぬ内容だった、
俺は天音に、そこを動かず、待っている事を確認し、
一刻も早く帰ると約束した。
タンデムシートの弥生ちゃんの不安な気持ちも伝わってくる。
俺は祈るような気持ちで、右手のアクセルを限界までオープンした。
俺の焦る気持ちとは裏腹に、高速道路の表示が無情に自宅までの
距離の長さを告げる……
自宅に到着したのは、天音の着信から一時間後だった。
ヘルメットの顎紐を外すのももどかしく、天音の待つ、
リビングに駆け込む、
「お兄ちゃん…… どうしよう、さよりちゃんと会えなくなっちゃうよ」
天音が焦燥しきった様子で俺に懇願する。
「一体、さよりちゃんに何があったんだ?」
茫然自失な天音の肩を揺すりながら問いただす……
我に返った天音が携帯のメール画面を差し出す。
そこにはさよりちゃんからの長文メッセージが表示されている、
「天音ちゃん、落ち着いて聞いて欲しいの、
私はお祖父様の書斎で、ある物を見つけてしまいました、
だけど、勝手にお祖父様の書斎から持ち出した事が、
発覚して、お祖父様の逆鱗に触れてしまいました、
私は歴史研究会への入部を直訴しましたが、お祖父様の怒りに
火に油を注ぐ結果になってしまいました……
こんな泥棒のような孫娘に育てた覚えは無いと、
結果、すべての自由を奪われ、歴史研究会への入部どころか、
中総高校も転校させられてしまいそうです……
この後の連絡も、もう取れないかもしれません、
本当にごめんなさい……」
ここでメールは途絶えていた、本多真一郎の弱点を探しに、
さよりちゃんは彼の書斎を捜索した……
そこで証拠になる物を見つけ出したんだ。
「天音、この後さよりちゃんと連絡は取れたのか?」
「……ううん、電話もメールも全く繋がらなくなったの」
きっと、連絡手段も取り上げられ、軟禁状態にされているんだろう、
八代先生が調べてくれた、本多会長についての評判が俺の頭をよぎる、
「本多会長は、自分の目的達成の為なら、平気で身内も切るそうだ、
学校支援についても、今まで何人の教職員、役員の入れ替えをして来たか……」
こんなに早く、実力行使に出るとは、予想外だった、
一体、どうすれば良いんだろう……
強大な権力を持つ本多会長に手も足も出ない……
もう万事休すなのか?
暗い表彰で黙り込む、俺と天音、
次の瞬間、そんな俺たち二人は一喝された。
「先輩! しっかりしてください…… まだゲームセットじゃないです!」
天音ちゃんの夢はこんなに簡単に諦める事なんですか?」
俺達を叱責したのは弥生ちゃんだった……
普段、声を荒げたりしない彼女が、感情をむき出しにして、
怒りをストレートにぶつけてくる、
先ほどのインカムマイクでの彼女の言葉が蘇る、
(先輩は格好悪くなんか無いです!!)
「もう一度さよりちゃんのメールを見せてくれないか……」
「分かった、お兄ちゃん確認して」
天音が携帯を差し出す、聡明なさよりちゃんの事だ、
何か見つけた物のヒントを隠してくれているはずだ……
メッセージには画像が添付されていた、
天音は文章の内容に驚いて、画像に気付いていなかったようだ、
お祖父さんの書斎だろうか、さよりちゃんが中央の机に座り、
背景には多数の書物が映り込んでいる、添付画像を拡大表示してみる、
さよりちゃんの右後ろの壁面に不自然なポスターが貼ってある事に気がついた、
そのポスターは年代物に見えるが、部屋が暗い為、
細かな文字が読み取れない、何かの演劇の紹介に思える、
俺はスマホの画像をパソコンに取り込み、画像ソフトで鮮明化してみる、
画像処理が完了して、表示された物を見て、俺は驚愕した。
そのポスターの中央には男装した天音が写っていた……
いや、着ている衣装や髪型から現代の物では無いのが分かる、
これが内藤純一の肖像画のモデルに間違いない。
その記事は浅草で当時、一世を風靡したという少女歌劇団を紹介した物だった。
ポスターの出演者の名前を見て、驚きは核心に変わった、
男装の天音そっくりの人物の名前は
今宮みすゞだった……
その名前には聞き覚えがある、
具無理で見つけた肖像画に隠されていた手紙の宛名と同じだ。
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