猫の森には帰れない
「宣人さん、この後、付き合ってくれませんか?」
真菜さんが悪戯っぽい子供のような表情になる、
えっ、付き合うってどういう事……
「宣人さん、以前私に言ってくれましたよね、お友達になってくれるって」
一瞬、何を言われたのか判らなかったが、
新入部員募集のPOP制作の作業時、何気なく言った、
俺の冗談を覚えてくれていたんだ……
「それに他の部員には、まだ聞かせたくない話もあるでしょうから」
そうだ、合宿の話や制服自由化に反対する輩がいる事、
まだ天音達には知られたくない……
「真菜先輩なら喜んで!」
あの時と同じセリフでおどける俺に、真菜さんが屈託のない笑顔になる。
俺には姉はいないが、こんな可愛いお姉さんがいたら素敵だろうな。
良く、クラスメートの男子に学園一の可愛い妹がいる事を、
すごく羨ましがられるが、それは身内に妹のいない者の
勝手な願望だと思っていた。
天音のような美少女と、一つ屋根の下に住んでいても、
妹なので異性としては捉えられない、
だけど、姉に対しては憧れの様な感情が俺の中にある。
そうか、これが羨ましがると言う気持ちなんだな。
「で、真菜先輩、どこに行きます?」
「宣人さん、私にまかせてください」
真菜さんと一緒に廊下を歩く、こうやって並ぶと真菜さんって
結構小柄なんだな……
真菜さんの編み込んである髪の毛の頭頂部が、ちょうど俺の肩ぐらいだ。
ふと、いい香りが感じられる、彼女の愛用の香水だろうか?
上品な中にも甘い香水の香りが心地よい、
何気なく、見つめていると真菜さんと視線が合う、
「宣人さん、私の顔に何かついてますか?」
「えっ、別に何も……」
「だって、すごく見つめているから……」
そう言われて、急にドキドキする、
何か言わなきゃ、焦ってしどろもどろな答えをしていまう。
「あ、ああ、こんな可愛いお姉さんがいたら、毎日楽しいだろうなって」
馬鹿! 何、心の声がダダ漏れしてるんだ、俺……
急激に赤くなる俺を横目に、クスクスと笑いだす真菜さん、
「ふふっ、私もこんな可愛い弟がいたら、毎日楽しいでしょうね!!」
優しく彼女が返してくれる、参った、どストライクだ。
年上の女性に惹かれてしまう気が、俺には昔からある。
多分、実の母親を幼い頃、亡くしてしまった事が原因だ、
母性に対する強い憧れの裏返しだろう……
これは恋愛感情とは違うと、自分に言い聞かせる。
昇降口を出て、駅まで続く通学路を並んで歩く。
バス通学をしている生徒が停留所で並んでいるのが見える、
その列の脇を通り、両脇に並ぶ商店街を進む。
最近はコンビニが出来たりしているが、昔ながらの洋品店、
バイクも扱う自転車屋には本屋も併設されている、
子供の頃、天音と良く本屋に来たっけ……
その並びの、とある古びた店の前で、真菜さんが立ち止まる。
「宣人さん、ここが目的のお店です!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます