あの子といい気分
「ごめんなさい、歴史研究会には入部出来ません……」
申し訳なさそうにさよりちゃんが頭を下げる、
彼女のショートカットの髪が、その動きに合わせて揺れる。
予想外の答えが返ってきた事に驚きを隠せない、
「何故駄目なの? さよりちゃん……」
それだけ聞くのが精一杯だった。
「それは……」
うつむきながら彼女が視線を逸すのが分かった、
その表情が曇りがちに見えたのは、白いメイクの印象だけでは無い。
「ごめんなさい!」
何も告げずに彼女は、その場を立ち去った……
一人その場に立ち尽くしながら、その
俺が勝手に盛り上がっていたんだろうか?
部員集めにばかり、意識が集中して彼女の気持ちなど
お構いなしだった……
他の部員の意見も聞いてみた方がいいのかもしれない。
俺は歴史研究会の部室に向かった。
放課後の部室棟は賑やかで、他の部活動の生徒も多い、
野球部やサッカー部など運動部系の定番に加え、
文化系の各部室がずらりと並んでいる。
その中でも実績のある、書道部の部室が大きなスペースを占めている。
その前に掲げられたポスターには、全国大会優勝おめでとう、と
書かれていて、大会に参加した部員の生徒の名前も記入されていた。
何気なく眺めていると書道部のドアが開き、声を掛けられる。
「こんにちは、用事があるなら中にどうぞ」
声の主を見ると、見覚えのある人が立っていた。
「真菜先輩……」
歴史研究会の部長を務める朝霞真菜さんだ、
その真菜さんが何で書道部の部室から出てくるんだろう、
驚いている俺に、真菜さんが微笑みかける。
「驚いた? 書道部の部長とは昔から親友なの」
そうか、前にみんなで部員集めのPOP作りをしていた時、
話していた幼なじみの親友の事か。
「歴史研究会の今後について相談していたの、
書道部は部員も多いし、全国大会の実績もあるので
同じ部長として参考になるアドバイスも多いから」
真菜さんも歴史研究会の事を心配してくれているんだな……
そう思うと、胸のモヤモヤがすっきり晴れていく気がした、
天音の男装女子カミングアウトから始まった、
歴史研究会の、これまでを思い返してみると、
自分一人で何でも出来ると、先走りして行動してきた気がする。
かなり自分勝手過ぎたのかもしれない……
部活動だけでは無い、人生のすべてが誰かの助けが必要だ、
気が付いていないだけで、自分の事を大切に思ってくれている
誰かが支えてくれている事を……
自分の大切な人の顔が、次々頭に浮かんでくる。
「真菜先輩、ごめんなさい!」
思わず深々と頭を下げる俺に、真菜さんがビックリしている。
「ど、どうしたの? 宣人さん……」
突然、謝罪する俺に、訳も分からずおろおろする真菜さん、
先程のさよりちゃんの入部拒否の件を伝える。
真菜さんは俺の反省も何となく察してくれて、静かに話に聞き入っている。
真菜さんは少し考えた後、柔和な微笑みを浮かべながら
俺にこう言った……
「宣人さん、この後、付き合ってくれませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます