水色のワンピース

あの日も、俺達はあの場所に集まったっけ……


俺を呼ぶ、彼女の声をあえて無視するのは、照れ隠しの側面がある。

そう、俺の初恋の相手は彼女だから……

お麻理や天音が居合わせたらこんな態度は出来ない。

すぐに気付かれてしまうから……

俺の初恋の彼女は、透き通る様な肌、ストレートの長い髪、

いつも困ったような眉、守ってあげたい女の子を具現化したような

可憐な女の子だった……

なのに小学生の俺は、無愛想な態度を取ってしまう。

大好きなのに、邪険に扱ってしまう……


「宣人お兄ちゃん! お願いだから降りてきて」


彼女のお願いに渋々、下に降りて行く。


「なんだよ、面倒くせえな……」


地上に降り立った俺がぶっきらぼうに答える。


「宣人お兄ちゃん、あのね……」


何か、言いかけるがその先の言葉が出ない。


「何、柿が欲しいの?」


柿の木に登ったついでに収穫した柿をポケットから差し出す。


「ううん、柿じゃないの……」


彼女が真剣な表情で、俺を見据える。

彼女の前髪がはらり、と揺れて真っ白なおでこが見える

お人形のような端正な顔立ち、唇が桃色に見えるのは

その当時、女の子の間で流行っていたリップクリームを

塗っているせいだ。


その視線に思わず、顔が赤くなるのが自分で分かる。


彼女は俺の一学年下で、天音と同じ学年だ。

近所だったこともあり、自然と遊ぶようになり、

俺、お麻理、天音、そして彼女で良く集まっていた。


「お月見の夜、宣人お兄ちゃんに見て欲しい物があるんだ……」


彼女が意を決したように、俺に告げる。


「お団子取りが済んだら、二人っきりで出掛けられるかな?」


えっ、二人っきり……

俺の胸が早鐘のように脈を打つのが感じられた。


「何処に行くの?」


俺の問いかけに、彼女は謎めいた微笑みを浮かべる。


「内緒……」


いたずらっぽく、彼女が呟く。

その頬に可愛いえくぼが浮かぶのを、眩しそうに俺は見つめていた。


「宣人お兄ちゃんには、絶対見せたい物なの……」


そう言いながら、彼女は踊るように、両手を広げ、身体を一回転させた。

水色のワンピースのスカートが、ふわりと広がり、

彼女の白い足が一瞬、あらわになった。

そのあまりの白さが俺の目に焼き付いたんだ……

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