非公式カップリングの波紋
「猪野先輩……」
「弥生ちゃん、可愛いね……」
本物の中空土偶の表情は、半開きの口元、下唇が厚めな部分が特徴だ。
ドグダンのキャラクターも、そこを再現しているので、
コスプレのポイントも、ぽってりとした口元の再現がキモだと、
後で弥生ちゃんが教えてくれた。
ルージュとメイクで、普段は可愛い系の弥生ちゃんがセクシーに見える……
アイヌにも受け継がれたという縄文人の刺青メイクも
フェイスペイントで、うまく再現している。
可愛い女の子の肌にこれを施すと、不思議な色気が醸しだされる。
何だか、いつもと違う魅力にドキドキしてしまう……
「先輩の合掌土偶コスも素敵です……」
弥生ちゃんが俺の頭からつま先まで視線を落とし、
溜息交じりに感想を洩らす。
そうか、この二人のキャラは非公式カップリングだったな。
弥生ちゃんがうっとりしているのも理解できる。
普段見慣れている、天音の合掌土偶コスプレも、
衣装やフェイスペイント等、フルバージョンでやるとこんな感じなんだ、
天音の男装にばかり気を取られていたが、天音なりに日常を考えて、
コスプレをライトに仕上げていたんだな……
「天音達を待たせちゃうから、そろそろ戻ろうか」
土偶男子にコスプレした俺達二人が席に戻ると、
天音とさよりちゃんが驚きの歓声を上げる。
「本当にお兄ちゃんなの? 合掌土偶様が本当に降臨したみたい……」
大げさだろうと思いつつ、満更でも無い俺が居る
天音の熱い視線を、全身で感じるのも悪い気分じゃ無い……
何だか、コスプレにハマる人の気持ちが理解できる。
「素敵です…… 二人が並ぶと本当のベターハーフに見えます」
さよりちゃんも俺達の変身に驚いている。
「さよりちゃん、ベターハーフってどんな意味なの?」
「外国の古い言い伝えで、この世には自分の片割れが存在すると言われています。
本当にお似合いなカップルの事をそう例えます」
「お似合いなカップルなんて……」
弥生ちゃんが真っ赤になるのが、濃いめのメイクの上からでも分かる。
「私の為に、こんな素敵な空間を用意してくれて、本当にありがとうございます」
さよりちゃんが感極まった表情で、俺達に語りかける。
「私が浮かないように、このお店にして頂いたことはすぐに気が付きました、
その上、お二人でコスプレまでしてくれて感激です……」
途中までは正しいが、コスプレは限定マスコットの為とは言い出せない雰囲気だ。
このまま、内緒にしておいた方が良さそうだ。
「お兄ちゃん、ちょっと待って、何か気が付かない?」
天音が不満そうな表情をしている、
まずい、マスコットの件がバレたか……
「三人がばっちりコスプレしているのに、天音だけ普通だよ、ズルくない……」
えっ? 男装女子だけでも立派な仮装じゃないの……
心の声で一人ツッコミを入れる、
まあ、そんなことで拗ねる天音も可愛いけど。
「天音もコスプレする! さよりちゃん、悪いけど先に食べながら待っててね」
天音が席を立ち、店員さんに案内されながら別室に消える、
あいつもコスプレって事は何のキャラに扮するつもりだろう……
普段の合掌土偶様は、俺が先に衣装もフルバージョンでやってるから、
対抗意識で兄妹でコスプレ合掌土偶被り?
「天音ちゃんは何のコスプレするんでしょうか?」
弥生ちゃんがワクワクしながら、俺とさよりちゃんに聞いてくる。
「あいつの事だから、同じキャラクターは無いと思うけど……」
先程の心配を打ち消そうと、あえて口に出してみる。
「でも、コスプレのイベント現場では人気キャラ被りの場合、
それが原因でもめ事が起こったら、
有名レイヤーを優先するというルールも存在するみたいですよ」
弥生ちゃんが、俺の不安をあおるマニア情報を教えてくれる。
じゃあ、天音の方が合掌土偶コスの歴が長いので、
俺が引き下がらなければならないのか。
「お待たせ!」
その時、天音が姿を現した……
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