これってダブルデートなの!?

 黒塗りの高級リムジンが、けたたましくクラクションを鳴らした。

 俺達の室内に緊張が走る……


「宣人、いざという時は天音と弥生ちゃんを守れ、それと絶対に車外には出るな」

 親父が俺だけに聞こえるぐらいの低い声で呟いた。

 俺はアイコンタクトで了解を伝え、

 万が一の時は、駅前交番に駆け込もうと考えた……


 ドアノブに手を掛け、親父が降りようとしたその瞬間、

 リムジンの後部ドアの窓が開き、車内の人物が

 俺達に向かって声を掛けてきた。


「おはようございます!」


 本多さよりちゃんが後部座席から顔を覗かせる。

 身構えていた親父が、安堵の溜息を漏らすのが分かる。

 でも何故こんな高級車に乗ってるんだ?


「さよりちゃん、その車は……」


「私は、仰々しいから嫌だと言ったんですけど、お祖父さんがこれで行けって……」


 恥ずかしそうに彼女が呟く。

 何だ、因縁をつけられるかと思ったら、さよりちゃんの家の車だったんだ。

 でも、こんな高級車でデートに行かせるなんて、

 さよりちゃんの家は、どれだけお金持ちなんだ?


「おはようございます、驚かせてしまったようで申し訳ありませんでした」


 身なりの整った正装の男性が運転席から降りてきた。


「執事の皆川みなかわです、本日はさよりお嬢様のお世話を担当させて頂きます、至らない所もございますが、何卒よろしくお願いします」


 俺たちに向かって丁寧にお辞儀をする。

 皆川さんはロマンスグレーの男性で、年齢は親父よりも年上に見える、

 親父が慌てて車外に降りて挨拶を交わした。


「私は一人で行けると言ったのに、どうしてもお祖父さんが認めてくれなくて……」


 さよりちゃんが不満げな表情で皆川さんを見上げる。

 執事さんが運転手と言うことは、車が二台になる。

 デートの送迎は親父に頼んでいるのでややこしくなったぞ……


「宣人、ちょっといいか」


 親父も同じ考えのようで、俺にそっと耳打ちする。


「さよりちゃんと天音にリムジンに乗って貰って、

  お前と弥生ちゃんは俺の車に乗れ」


 そうか、それなら一石二鳥だ! 二人のデートを邪魔せず、

 一緒に同行出来る、さすが親父。

 それにさよりちゃんの今日のコーデは……


「さよりちゃん! アリスコーデで来てくれたんだね……」


 天音がさよりちゃんに駆け寄る。


「は、はい、初デートなのでいつもより気合いを入れてきました」


 確かに部室で見た物とエプロンドレスは一緒だが、

 黒髪のショートではなく、大きなリボンを着けた髪は金髪のロングになっている、


「さよりちゃん、その髪型は?」


 天音も気が付いたようだ。


「ロングヘアーのウィッグを使って、本物のアリスちゃんに寄せてみました……」


 さよりちゃんが長い髪の両端を触りながら答える。

 天音が至福の表情になっていくのが横顔からでも判る……

 まずい、また暴走モードに入りそうだ。


「まあ、立話も何だから、出発しよう! 天音はリムジンに乗って」


 慌てて、俺が会話に割り込む。

 第一の目的地は親父が執事さんに伝えてくれたようだ。

 天音がリムジンの後部座席に乗り込む、

 執事さんが、洗練された動作で丁寧にドアを閉める


「何これ、すごい豪華!」


 天音が驚きの声を上げるのが聞こえた。

 こちらからみえた内装は後部座席中央にテーブル、左右に豪華な

 革張りのソファー、冷蔵庫、最新のオーディオビジュアル機器も

 完備の様だ、天音が驚くのも無理も無い。


 俺と弥生ちゃんは親父の車に乗り込む、


「弥生ちゃん、いよいよデート開始だね!」


「はいっ!、二人に楽しんで貰えるように頑張ります」


 弥生ちゃんが張り切りながら、親父に今日のプラン表を渡す。


「猪野先輩のお父さん、今日はよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくね、あとその呼び方は長いので、誠治さんって呼んで」

 親父がいつもの癖で冗談を言う、子供として恥ずかしい……


「はっ、はい、じゃあ誠治さん……」


 弥生ちゃん、駄目だ、ギャグに本気で答えたら。

 親父が思わず、吹き出す。

 俺達の車内も明るい空気が流れる。


「さあ出発だ!」


 親父の車が先導しながら、それにリムジンが続く。

 さよりちゃんと天音の様子はこちらからは見えない。


 どんなデートになるだろうか、楽しみでもあり不安でもある……

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