天音の想い

「ちょ、ちょっと待った!」


 パジャマの上着のボタンを外しだす天音。

 思わず目を逸らす……


「ちゃんと見て貰いたいの、お兄ちゃん、目を開けて……」


 おずおずと天音に視線を落とす。

 真っ先に胸の膨らみが視界に飛び込んでくる。

 薄いブルーのブラで肩紐の幅が広く、

 バストの全体をカバーするタイプだ。


「これは寝るときのルームブラなの、

 胸は大切にしないといけないから、気を使ってるんだよ」


 天音が何故か、妙に冷静な顔で説明する。

 大きめとは言えないが、形の良い胸にドキドキする。


「あっ、見て欲しいって言ったけど、ここだけは

 後ろ向いてて……」


 天音の言うとおり、ベットの上で後ろ向きになる。


「僕が良いって言うまで、こっち向いちゃ駄目だよ」


 そう言われると、逆に見たくなるのが男のサガだ……

 鶴の恩返しの、主人公の気持ちが痛いほど分かる。


 ナイロン素材独特の、布擦れの音だけ聞こえる。

 天音がブラを脱いだのが分かる。

 耳がものすごく敏感になってしまう…… 


「こっち向いてイイよ、お兄ちゃん」


 天音の立っている方向に、身体の向きを変える。


「……!?」


 天音の胸の膨らみが無くなっている……


「胸の膨らみが無い……」


 黒いタンクトップを着用しており、下回り丈が普通より短い。

 驚く俺に、男装初登校と同じ、得意げな顔で解説し始める。


「これは胸を隠すサポーター、男装女子の基本アイテムだよ」


 なんだ? そのRPGゲームの布の防具みたいな言い回しは……


「これで天音の胸の膨らみを隠すんだ、

 だけど負担も掛かるので、バストのケアには気を使うの」


 天音先生の講義は続く……


「さてと、」 


 天音がパジャマの下をためらいも無く、脱ぎ始める。


「天音! お兄ちゃん、後ろ向いてないけど……」


「何? 大丈夫だよ! ショーツは履き替えないし、

 ボクサータイプのショーツだし」


 普通、良くないんじゃ無いだろうか?

 兄とは言え、男だぞ、一応俺も……

 上のサポーターと同じ、黒いショーツだ、

 おへその下の股上が浅い、ローライズタイプだ。

 天音がくるりと、得意げに背中を向ける、

 ヤバい、形の良い小ぶりなお尻に、視線が釘付けになってしまう。

 自分の頬が赤くなるのが分かる…… 


「ここからが変身の本番だよ」


 薄いカーディガンを羽織り、天音がドレッサーのスツールに

 腰掛ける。


「男の人が女装すると、化粧が濃すぎる場合が多いの、

 男装はその反対で濃いメークは駄目、気持ち悪くなっちゃうから、

 基本、ベースメイクだけが良いけど、産毛とか下地の処理は重要、

 これで透明感に違いが出ちゃう……」


 更に薄い青が印象的なカラーコンタクトと、

 髪を纏め、最近見慣れた毛先にジャギーの入った

 ベリーショートのウィッグを着ける


 単純に凄いと思った、先程までの不純な気持ちが吹っ飛んだ……


「天音……」


「んっ?」


「お前、こんなに頑張ってたんだ……」


「お兄ちゃんには、全部見て貰いたかったんだよ……」


 天音が真剣な顔で俺を見据える


「……ありがとう、お兄ちゃん」


 何かに、打ち込んでいる人を見るのは感動する。

 それが何であれ、馬鹿にするヤツは俺が許さない。

 天音の変身を見て、心からそう思った……

 それが俺達、兄妹の今朝の出来事だ。


 ただ、一つ疑問がある、

 天音は何故男装女子になったんだろう……

 土偶男子のファンと言うだけでは、ここまでの理由付けには

 ならない気がする。


 もっと強い想いが、天音にはありそうだ……  


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