土曜日の穏やかな朝

「天音、起きろよ! 朝ご飯だよ」


 天音の部屋をノックするが、反応が無い……

 あいつが寝坊するなんて、珍しい事もあるもんだ。

 今日は土曜日で学校は休みだが、天音は曜日に関係なく、

 朝食やお弁当の準備があるので、いつも六時頃には起きている。


 俺達、兄妹の部屋は二階にあり、廊下を挟んで向かい合わせだ。

 それぞれ六畳ぐらいの部屋で、広さも同じだが、

 日当たりの良さが違い、最初は俺が兄貴の特権を発動して、

 日照権を勝ち取ったが、天音が中学に入学する頃、

 洗濯物を干す関係で、何故か部屋を入れ替えされた……


 意味が分からず、親に不満をぶつけたが、

 外から、ベランダを見上げて理解した。

 色とりどりの天音の下着が風に揺れていた……


 それまでは俺の部屋のベランダで、家族の洗濯物を干していた。

 天音の下着も、いわゆるプリント柄の子供パンツと、

 ジュニアブラだったので、俺も気が付かなかったが、

 中学生になった、天音の変化に戸惑いを覚えた。

 幼児体型から急速に少女に変貌してきたんだ……。


 思春期の天音や俺への影響も考えての、部屋の入れ替えだった。

 今、思えば親の配慮が分かる。


「天音、食べないのか? 冷めちゃうぞ」


 もう一度、ドアをノックしながら声を掛ける……


「……ごめん、お兄ちゃん」


 やっとドアが開き、見るからに寝不足な顔をした天音が現れる。

 一瞬、ドキッ、としてしまう……

 ノーメイクでもやっぱり可愛い、

 寝起きは、男装用のウィッグは着けていない、

 何の色気もない寝間着のパジャマだが、元が美少女だけに

 逆に、素性の良さを引き出している。


「珍しいな、お前が寝坊なんて」


 気を取り直して声を掛ける。


「何だか、明日のデートの事を考えていたら眠れなくって……」


 そう、明日はさよりちゃんとのデートの日だ。

 さよりちゃんの男性恐怖症克服が目的とは言え、

 天音にとっては、初デートだかなら……


「お兄ちゃんが朝ご飯、作ってくれたんだ、ありがとう……」


 天音が嬉しそうに目を細める。


「まあ、お前のレパートリーには敵わないけどな」


 有名セレクトショップのバイヤーをしている、

 母親は家を空けがちにしている。

 その代わりに天音が家事を担当して貰っている。

 まあ、今は男装女子を応援する替わりに、

 交換条件で家事、お弁当作りを引き受けているが……


 天音が食卓に付き、俺の作った朝食を食べ始める。


「いただきます」


 まず、味噌汁から箸を付ける、

 味はどうだろう?


「うん! おいしい」


 良かった、野菜中心に、田舎のおばあちゃん謹製の

 味噌で仕上げたんだ。


「お兄ちゃん、僕がいなくなっても大丈夫だね!」


 それを聞いた俺が、驚いた顔をしていると、


「冗談だよ…… お父さんとお兄ちゃんを置いてかないよ」


 天音が屈託の無い笑顔で答える。


 休日の柔らかい時間が流れる……

 結構、天音の存在に助けられている事を実感した。


「そう言えば、今日はまだ男装していないけど、

 どれくらい用意に時間掛かるの?」


 何気なく天音に聞いてみる。

 天音は、よくぞ聞いてくれました、という顔をして言った。


「お兄ちゃん、後で天音の部屋に来て……」


 えっ! 妹の部屋にお呼ばれ……

 今まで、勝手に入らないで! と厳しく言われていたのに、

 何でだろう?


 食事も終わり、コーヒーで一服してから天音の部屋に向かった。

 ドアをノックする。


「どうぞ、入って」


 何故か緊張気味になる……

 天音の部屋をまじまじと見るのは久しぶりだ。

 男装女子発覚の時は、俺も気が動転して、

 周りを見る余裕も無かったから……


 清潔感のあるグリーンを基調としたカーテン、カーペット、

 北欧製のベットの脇には、本や小物を置ける本棚兼の棚

 その反対側には古いミシンのテーブルをリメイクした

 ドレッサーがある。


「まあ、そこに座って」


 天音がベットを指し示す。


「お、おう……」


 良く整えられたシーツを、シワにしないよう腰掛ける。

 ふわり、と良い香りがした。


 天音がドレッサーの前に立つ。。


「お兄ちゃんには一度、見て貰いたいと思ってたんだ、

 天音が、男の子に変身するところ……」 


 そう言って、天音はパジャマをおもむろに脱ぎ始めた……  

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