新たな入部希望者

「もしもし、今度の日曜日だけど空いているかな?」


 電話の向こうのぬしは俺の提案に最初は驚いていたが、

 事情を話すと快く協力を約束してくれた。


 よし!! これで根回しは出来たな……。


 最寄り駅でさよりちゃんと別れて自宅までの道すがら、

 天音に日曜日のデートについて問いかけてみた。


「天音、日曜日のデートの件だけど、にさよりちゃんをどこへ連れていくつもりなの?」


「えっ……!?」


 天音は俺の質問に不安そうな表情を浮かべる。


「お、お兄ちゃん、どうしよう。私、デートなんてした経験がないんだ」


 それはそうだろうな、これまで学園一の美少女だった天音に言い寄る相手は多かったが、実際に交際した経験は俺の知る限りではデートの経験はないはずだ。


「……困ったな、まったくデートの行き先が思いつかないよ」


 急に心配し始めた天音に俺がひとつの提案を持ちかける。


「そうだ!! 俺は女の子の流行りに詳しいある御方おかたを知っているんだ。

 その人に頼めばきっと最適なデートプランを考えてくれるはずだ」


「えっ、お兄ちゃんにそんな知り合いがいるの!? ぜひ紹介してよ!!」


 しめしめ、天音がこちらの思惑おもわくに乗っかってきたぞ……。


「じゃあその人と俺も日曜日のデートに同行してもいいか? 二人の邪魔はしないように配慮するから」


 俺は一気にたたみ掛ける。


「さよりちゃんの男性恐怖症の悩みを解決してあげたいから……。お兄ちゃん、こちらこそ何卒お願いします!!」


 天音が両手を合わせながら頼み込んできた。


 よし!! これで作戦どおりだ。あの御方と急いでデートプランを作成をしなければならないな……。


 ……日曜日まで、あと二日か。



 次の日の放課後、歴史研究会の部室棟の前には、

 人だかりが出来ていた。


 みんなで苦労して作成した、ポスターやチラシの効果で、

 入部検討の見学者が集まっていた。


 顧問の八代先生や朝霞部長が、対応に追われている。


 部室では手狭なので、校舎の視聴覚室に移動して貰って、

 歴史研究会の説明を開始する。


 ここに集まって頂いた皆さん、本当にありがとうございます。」

「私達、歴史研究会部員は皆様を歓迎します、

 今日のオリエンテーションを見て、入部するかは検討してください」

 朝霞部長が挨拶をする。


 部屋の照明が落とされ、スクリーンの垂れ幕が降りてくる、

 映像にて活動概要が紹介される。


 DVDレコーダーの鈍い作動音と共に、映像が映し出される。

「ようこそ、歴研へ……」


 ナレーションの説明が始まる。


「えっ!」

 そこに映し出された映像は、俺の想像していた文化系の穏やかなノリとは

 正反対の光景が映し出されていた。


 滝に打たれる荒行、即身成仏になれそうな断食修行、

 お寺の住職に、激しく背中を叩かれる座禅修行

 はたまた、八甲田山のような極寒を部員で登山している映像。

 猛吹雪の雪山でのテント生活は、今はやりの、ゆるキャンプではない……


 ナレーションが続く。


「われわれ、歴研のモットーはその時代に寄り添い、

 実際に経験することで、歴史の追体験を出来ると考えております」


 その中でもハイライトは、東海道五十三次を、実際に歩くだけでは無く、

 耐久マラソンの様に、厳しい時間制限を課したサバイバルレースだ

 道すがらに死屍累々と部員が倒れている……


「こ、これは!」


 俺を含め、そこに居た入部希望の生徒が絶句する。


「あっ! DVDを間違えた……」


 席を外していた、顧問の八代先生が戻ってきて

 慌てて、DVDを入れ替える。


 新たな映像が流れ始める、

「ヤッホー、歴研のゆるキャラ、おーい土偶丸どぐまるだよ!」


 某国営放送の、あるキャラを彷彿させる着ぐるみがしゃべりだす。


「ちょー簡単な活動しかさせないよ! 初めてでも出来る活動です」


 何だかブラック企業の斡旋広告みたいだな……

 あのハードな活動のDVDを見た後なので、全然信用出来ない。


 それをみた入部希望の生徒が、恐れをなして

 一人、また一人と席を立ち、殆どが教室から逃げ出していく。


「完全に失敗してしまった……」


 八代先生が、頭を抱えこむ。


「よりによって、一番厳しい活動をしていた時期の映像を

 流すなんて……」


「八代先生のせいではありません、私が入部前の、

 あまりの厳しさが問題視されて、廃部寸前になった頃の映像ですから」

 朝霞部長が声を掛ける、

 そうなんだ、だから百人居た部員も激減したのかも。


 殆ど 入部希望者が逃げ出してしまったと思われた教室に、

 二人の女生徒が、帰らずに残っていた。


「君たちは?」


 女の子に声を掛ける。


「私たち、入部希望です」


 女の子達が、声を揃えて答える。


 あれ? この二人どっかで見たことがあるぞ……


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