男装女子×男性恐怖症の女の子

「天音さん、私と付き合ってくれませんか……」


 一瞬、言葉の意味が理解出来ず、俺達兄妹は絶句した。


 さよりちゃんの真剣な眼差しに、天音も気圧された様に立ちすくんでいた。

 付き合うって、男と女って意味の? いや男装女子と女の子か……


「本多さん。僕と付き合うってどういう意味?」


 天音が言葉の真意を掴めず、質問する


「天音さんなら、私の男性恐怖症を克服させてくれるかなって……」


 天音なら見た目は男でも、中身は女の子だから恐怖心が出ないのか。


「失礼なお願いと思いますが、私と一度デートしてくれませんか?」


 デート? さよりちゃんの可愛らしいお願いに、心底ホッとした……

 付き合うという単語に、もっと深い意味を想像してしまった……

 俺の心が不純な証拠だ……


「はっ、はい!」


 天音が脊髄反射で即答する……

 早っ! 即決すぎるだろ。


 あっ!、もしかして……

 お茶会で見せた、アリスコーデのさよりちゃんに見せた反応を思い出す。


 天音は昔から、不思議の国のアリス大好きっ娘だったんだ……

 先日も、幻の実写アリス映画が、初DVD化されると

 ア◯ゾンで見つけて。大喜びだったし……


「本当ですか! 嬉しい……」


「一つ、本多さんにお願いがあるんだけど、」


 天音の顔が心なしか、輝きを増したように見えた……


「お願いって、何ですか?」


「デートに、今日のアリスコーデで来てくれない?」


 ……やっぱり、我ながら妹の事は手に取るように解るな。


「えっ! 本当にいいんですか? 外であの服を着れるなんて、夢のようです……」


 天音がコクコクと頷きながら、

「さよりちゃんの今日のアリスコーデは。いわゆる青アリスだよね、

 ドジスン先生の、初期スケッチバージョンとはエモい選択だね……」


「はいっ?」


 さよりちゃんがきょとんとする。


 天音が、アリスマニアにしか解らないネタをぶっ込んで来たので、

 慌てて二人の会話に割り込む。


「で、デートはいつが良いの?」


 俺が慌てて、話題を切り替える。


「今週の日曜日はいかがですか?」


「大丈夫、その日は空いているよ。」


「じゃあ駅前の噴水広場で待ち合わせしましょう、

 時間は、午前十時でいいですか?」


「了解! 大丈夫だよ」


「今から楽しみです! 早く日曜日にならないかな……」


 会話を交わす嬉しそうな二人を見ていて、微笑ましくなったが、

 ふと、不安が俺の胸中をよぎった。


 服装のリクエストといい、アリス関連が絡むと、

 天音が暴走しないか、心配になって来た。


 昔から大好きなモノが絡むと、ゾーンに入って

 猪突猛進してしまう癖がある。

 まあ、そういうところが、天音の可愛い部分でもあるのだが……


 心配なので、俺が作戦を練っておこう……


 あのお方に、デートのコーディネイトをお願いしよう。

 俺は、天音とさよりちゃんから少し離れて電話を掛けた。


「もしもし、今度の日曜日だけど、空いているかな?」

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