お茶会へのお誘い 二

「天音、何があったんだ?」


 女子トイレ前はちょっとした修羅場と化していた。


「お兄ちゃん……」


 泣きじゃくるさよりちゃんに何も出来ず、ただ動揺する天音。


「何だか、本多さんをすごく驚かせてしまったみたい……」


 こちらに困惑した表情をむけて小声で呟いた


 そうか、さよりちゃんは天音の事を男だと思いこんでいた……

 その天音と、女子トイレで鉢合わせしてしまったんだ。

 男が女子トイレにいたらそれは驚くだろうな。

 もし俺が同じ行動をしたら、社会的に終了のお知らせだろう。


「本多さん、実は……」


 俺がさよりちゃんに説明しようとした時、


「何の騒ぎ?」


 別の女生徒に声を掛けられた。


「天音ちゃん、何があったの?」


 住田弥生ちゃんだ、この状況を理解出来ずにいた。


「あまねちゃん?」


 まだ嗚咽を続けていたさよりちゃんが、ハッとした顔になる。


「もしかして女の子なの?」


 天音の顔をまじまじと見つめる。

 弥生ちゃんが状況を把握してフォローする。


「そうだよ、今は事情があって男の子の格好をしてるけど、

 元は女の子の猪野天音ちゃんだよ」


 さよりちゃんの顔がみるみる赤くなり、

 耳まで真っ赤に染まった。


「どうしよう私、凄い勘違いしてた……」


 今度は恥ずかしさで、また泣き出し始めた、


 それを見ていた天音が、そっとさよりちゃんに寄り添い、

 ハンカチで優しく涙を拭いてあげた。


「こっちこそ、驚かしてごめん……」


 さよりちゃんは、天音に触れられた瞬間

 一瞬表情をこわばらせたが、すぐに落ち着いた表情に変わった。


「あっ、ありがとう……」


 何とか誤解が解けたようだ。


 さよりちゃんがポツリで呟く。


「触られても平気だ……」


 俺以外、その言葉に気付いてなかった。

 俺もその場は気にせず、スルーしていたが

 後々、その言葉が大きな意味を持つことにになるとは……


 天音がさよりちゃんに向き直り、あらためて謝りながら


「こんな事があったけど、放課後のお茶会には来てくれる?」


「はい、こちらこそ迷惑を掛けてしまいましたが、

 ぜひ参加させてください」


 さよりちゃんが柔らかさを取り戻した笑顔で答える


「授業が始まっちゃうよ!」


 弥生ちゃんがみんなに声を掛ける。


「弥生ちゃん、ありがとうね」


 俺が感謝の気持ちを伝える、

 誤解が解けて本当に良かった……


 後で天音に聞いた話だが、駅で多目的トイレに入ろうと思ったら、

 あいにく使用中だったそうで、

 我慢しながらの登校だったので、気分が悪そうに見えたんだ。

 何故、多目的トイレかというと男装なので、

 公共の場では、女子トイレに入るのはまずいとの配慮だ。


 学校でも普段は、人の少ない職員用の男女兼用トイレを

 許可を貰って使用していたようだ。

 だけど今朝は、仕方なく女子トイレに入ったらこの事件だ、

 色々、男装女子も大変なんだな。


 昼休みの時間を利用して、ポスターの設置や勧誘チラシの配布を

 歴史研究会のみんなで手分けして行った。

 頑張って作ったチラシは好評で、結構受け取って貰えた。

 よし!これで部員が増えればいいな。


 放課後、お茶会の約束があるので部室に急ぐ。

 すでに部員のみんなは揃っていた。


「あれ? さよりちゃんは……」


「さよりちゃんは来てるけど、お茶会用の正装したいって、

 奥の部屋で着替えてる」


 お茶会用の正装? 何だろう……


「お待たせしました……」


 さよりちゃんが姿を見せる。


「まあ、素敵!!」


 朝霞部長がその姿を見て、感嘆の声をあげた。

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