お茶会へのお誘い
お麻理の入院から一夜明けた、
検査の結果、幸い大きな異常は見受けられかった。
足は骨折はしていないがヒビが入った為、しばらく自宅療養が必要だ。
風邪で体調が悪い所に、ふらついて階段を踏み外したのが原因だったようだ。
でも大事に至らなくて本当に良かった。
俺は病室での俺の行動を思い出していた……
『何で泣いているの?』
お麻理が心配そうに問いかける、
俺の頬を止めどなく流れる涙。
その原因が何かは、自分でも分かっている……
俺が高校で無気力になったことにも、深く関係があることを。
考える事から逃げている自分にも嫌気が刺す。
考えても仕方がない、歴史研究会に集中しよう。
今日はみんなで制作した、ポスターやチラシの配布日だから。
「お兄ちゃん早く! 乗り遅れちゃうよ」
天音と、駅の階段を急いで降りた。
朝の通勤ラッシュを避けるため、今までより数本早い電車に乗り込む。
電車内は混雑はしているが、身動きがとれない程ではなく
参考書を読んでいる学生や、折りたたんだ新聞を読む会社員、
ある程度余裕のある車内だった。
運良く、空いてそうな向かい合わせのボックスシートに向かう。
「あっ! おはようございます」
先に座っていた女生徒に声を掛けられた。
「この間はありがとうございました」
先日、天音が痴漢から助けた本多さよりちゃんだ。
「おはよう、ここ座ってもいいかな?」
「どうぞ!」
さよりちゃんが席を深く座り直して、向かい座席のスペースを広けてくれた。
天音がさよりちゃんの正面に腰掛ける、
「この間は大変だったね……」
天音が心配そうに話しかけた。
「はいっ、助けて頂いて本当にありがとうございました」
さよりちゃんが嬉しそうな表情になる。
そうか、天音にお礼をしたいってこの間も言っていたな。
「お菓子ありがとう、お母さんにもよろしく伝えといてね」
俺がこの間の菓子折のお礼をする。
朝霞部長の、お茶会のお供にと、
歴史研究会の部室に置いてある、
冷蔵庫に入れてあるので日持ちはしそうだ、
天音が向かい合わせの彼女に話しかける。
「本多さん、確か隣のクラスだったよね」
「はい、一緒の合同授業もよくありますよね、
でも、弟さんはあまりお見かけした事無いですね……」
さよりちゃんは、天音の事を俺の弟だと思い込んでいるんだっけ、
女生徒の天音ではないので気が付かないんだ。
これは正直に言うべきか迷う……
そうこう悩んでいる内に電車は、高校の最寄り駅に到着した。
「そうだ、本多さん、放課後時間ある?」
天音が何か思いついたようだ。
「お茶会をやるから良かったら遊びに来ない?」
「えっ! いいんですか?」
さよりちゃんが愛らしい笑顔になる。
「頂いたお菓子のお礼もしたいから、ぜひ歴史研究会の部室まで来て」
天音も飛切りの笑顔を見せた。
この時、さよりちゃんの天音を見つめる瞳の真剣さを
俺は見落としてしまっていたんだ……
「じゃあ、お先に失礼します」
ぺこりと会釈をしながら、さよりちゃんが同級生と待ち合わせだろうか、
改札の向こう側に手を振りながら駆けだした
俺達も行こうと改札に向かうが、天音が着いて来ない……
後ろを振り返ると、少しモジモジしている。
「お兄ちゃん、悪いけどちょっと待っててくれる……」
改札手前の通路に消えた。
何だ、トイレか…… でも何故かすぐに戻ってきた。
「天音、大丈夫?」
「うん、平気」
改札を抜けて学校へと向かう。
通学路の途中で天音の様子がおかしい事に気付く。
黙ったまま、うつむき加減で歩いている。
顔色も蒼く見える、体調でも悪いのかな?
学校に到着しても天音の様子は変わらないので、
すこし心配になる。
昇降口を通り抜け、一階の一年生の教室に続く廊下を進む。
いつもなら手前の階段で、二年生の教室に向かうが、
天音が心配で立ち止まって見送る。
天音は急ぎ足で、一年の教室向かいのスペースに入っていった。
んっ?あれは女子トイレのある場所だ……
「きゃぁああああ!」
女の子の甲高い悲鳴が聞こえた!!
何事が起こったんだ、急いで女子トイレの前まで向かう。
そこには泣きじゃくる女の子、心配そうに同級生の女の子達が取り囲む。
その前にいるのは……
天音が呆然としてその場に立ち尽くしている……
更に泣きじゃくる女の子の顔を確認して俺も固まった。
あの本多さよりちゃんだった……
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