新しい仲間
「さっ、お弁当食べよ!」
天音がお弁当を広げる。
天音の作戦にまんまと乗せられて、
中庭のベンチで並んで、三人でお弁当を食べることになってしまった。
弥生ちゃんとは昨晩の告白の件もあるので、
俺もかなり意識してしまう……
弥生ちゃんも固まってしまって、膝に置いたお弁当を開こうとしない。
うつむいた顔の視線が泳いでいるのが分かる。
「早く食べないと、お昼休み、終わっちゃうよ!」
ぎこちない俺たちを見かねた天音が、弥生ちゃんの肩を軽く叩く。
「あっ、うん……」
弥生ちゃんがお弁当を広げる。
身体と一緒で、小さめのかわいらしいお弁当箱だ。
俺もお弁当を広げる。
今月は約束で天音が作ってくれるが、
今朝は俺も手伝いをした。
だけど天音に言わせると、
手伝ってくれるのはありがたいけど、
俺が何かを手伝うと、手伝ったオーラを
全開で出してくるので、ウザいといつも叱られる……
お母さんや私は家事をやっても、そんなオーラ出さないでしょって。
「可愛らしいお弁当だね、弥生ちゃんが作るの?」
何気なく聞いてみる。
弥生ちゃんが照れながら教えてくれた。
「お母さんが、私より仕事に行くのが早いので、
下ごしらえはやってもらってるけど、あとは自分で作ります」
「へえ、偉いね……」
やっぱり女の子だ、感心する、
俺と弥生ちゃんの会話を横で聞きながら、天音が安堵の表情になった、
結構、俺たち二人の関係を心配してくれてるんだろう……
「そうそう、話って何?」
天音が俺に思い出したように尋ねる、
「放課後の部活動だけど、参加出来ない、
お麻理が体調不良で休んだので、プリント届けないといけないんだ」
「そう、麻理恵お姉ちゃんによろしく伝えて……」
天音が心配そうになる、俺たち兄妹とは旧知の仲なので、
無理も無い。
「じゃあ、今日は朝霞部長と僕達、三人で頑張るね!」
「おう、悪いな……」
弥生ちゃんも、こちらに身を乗り出しながら俺に言った。
「任せてください、猪野先輩が揃えてくれた画材も沢山あるし」
「弥生ちゃんもありがとう、でも放課後時間大丈夫?」
俺が心配すると、弥生ちゃんはいつもの元気なポーズをみせた。
「平気です、部活動や塾やっていないし……」
「そうなんだ、中学の時、美術部だったんじゃない
高校ではやらないの?」
何気なく俺が問いかけると、
弥生ちゃんはちょっと照れながら理由を教えてくれた。
「高校の美術部って専門的すぎて、見学に行ったんですが、
何となく、肌に合わなそうで選択しませんでした」
弥生ちゃんが照れくさそうに続けて話してくれる
「どっちかって言うと、イラストや少女漫画のような
絵が好きなんです……」
そっか、弥生ちゃんの雰囲気にはピッタリだな。
「土偶男子を教えてくれたのも、弥生ちゃんだもんね」
天音が嬉しそうに答える。
弥生ちゃんは申し訳なさそうに伏し目がちになる。
「まさか、天音ちゃんがここまで影響されるとは思わなくて、
ごめんなさい……」
天音の男装女子化の責任を感じているんだろう。
「そんなことないよ、弥生ちゃんにはすごく感謝しているんだよ」
天音が弥生ちゃんのほうに向き直り、手を取りながらそう言った。
その情景を眺めていたら、俺はひらめいた。
「そうだ!弥生ちゃん、歴史研究会に入らない?」
弥生ちゃんと天音が手を繋ぎながら、俺を見つめる。
「えっ!お手伝いじゃなくて、入部していいんですか?」
弥生ちゃんが頬を紅潮させ、嬉しそうに答える。
「そうだよ!弥生ちゃんも協力して、一緒にやれたら私も頑張れるし……」
天音もにっこりと笑顔になる。
弥生ちゃんがこちらに視線を向けて、
満面の笑顔を見せてくれた、
これで弥生ちゃんも、俺たちの夢に参加してくれる……
放課後、及川麻理恵の家に向かう。
同じ地区ではないが、俺の家から徒歩で十分位の場所にある。
まとまって住宅が立ち並ぶ一角の一軒家だ。
近所に神社の鳥居があり、子供の頃、俺達、兄妹とお麻理で
よく遊んだ神社もある。
玄関チャイムを押すが応答が無い……
両親は共働きのばずで、駅までの通学用の自転車も
駐車場にあるので出掛けているはずは無い。
「病院にでも行っているのかな?」
プリントが入った手提げを、玄関ドアの取っ手に掛けようとすると、
中から女性のうめき声が聞こえた。
ドアを強めにノックするが開く気配は無い、
返事が聞こえるように耳を澄ますと
中からうめくような声は微かに聞こえてくる。
思わず、ドアノブに手を掛ける。
鍵は掛かっていない……
悪いと思いつつ、うめき声が気になるので中に入る。
「おじゃまします……」
声をかけながら室内を見回してみる。
「あっ!?」
玄関から続く廊下に、人が倒れているのが見えた……
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