やよいちゃんパニック!
「このロゴ、何色で塗れば目立つかな?」
天音が弥生ちゃんに声を掛ける。
「あっ、それはマーカーよりカッティングシートで二段に張り込んだ方が目立つよ」
天音と弥生ちゃんが、勧誘用のポスターのレイアウトをしている。
驚いたことに弥生ちゃんは、知識も豊富な上にイラストも得意らしい……
中学時代は、美術部に三年間在籍していたそうだ。
「天音ちゃんと弥生ちゃんは、本当に仲良しですね」
朝霞部長が、チラシの原稿をチェックしながら微笑んだ。
「そうなんですよ、親友ってヤツですね……」
俺が作業をしながら答える。
「私にも、親友と呼べる同い年の子がいます、
幼なじみの女の子で、いつも一緒にいるわけじゃ無いけど、
会うとすごくリラックス出来るんですよね」
朝霞部長が、柔和な笑顔で話してくれた。
こんな柔らかな雰囲気の人が、更にリラックスするなんて
よっぽど気の置けない友達なんだろう……
「宣人さんにも、親友みたいなお友達はいらっしゃるの?」
一瞬、俺の作業の手が止まる、
「あっ、ごめんなさい……」
俺の曇った表情を見逃さず、朝霞部長が謝ってくれた。
気を使わせたみたいだ……
「俺なんか、引きこもり寸前だったんで、高校の友達少ないんすよ」
我に返り、おどけながら答える、
ほっ、とした表情で、朝霞先輩がこう言ってくれた。
「じゃあ、私とお友達になりましょう……」
「真菜先輩みたいな、美人さんなら喜んで!」
先ほどより、更におどけながら答える。
朝霞部長がクスクス笑い出す。
そのやりとりを、天音が不安げに見ていた事に、
その時は気が付かなかった……
俺の中学時代に起こった、ある事件を心配してくれていたんだ。
「よし、キリの良い所で、解散しよう、
授業に遅れないようにな」
顧問の八代先生が、戸締まりをしながら
俺たちに言った。
「ごくろうさま、住田もありがとな……」
弥生ちゃんが、照れくさそうに会釈で答える。
「また来てもいいですか?」
えっ? これからもお手伝いに来てくれるんだ。
「もちろん、大歓迎よ」
と朝霞部長。
天音も嬉しそうな顔で、こちらに目配せする。
やっぱり、天音の作戦だな……
朝から嬉しい出来事だ。
教室に戻り、自分の席に着くと、いつもと雰囲気が違う。
隣の席に、お麻理こと及川麻理恵がいない……
「及川は、体調不良で本日欠席だ」
ホームルーム開始早々、担任の下田先生がみんなに伝えた。
あいつが体調不良で欠席なんて、珍しいな……
過去、あいつが休んだ事なんて、
身内の冠婚葬祭しかないはずだ。
「猪野、悪いけど及川にプリント届けてやってくれ」
先生に頼まれる、
俺の家が、及川の家に近いこともあるが、
小、中、高のくされ縁を、みんな知っているからだ。
何だか心配なので、今日の放課後に届けてやろう。
放課後の部活動に、参加出来ない事を、
天音達に伝えなければならない。
昼休みに、一年B組の教室に向かう、
ちょうど天音と弥生ちゃんが、お昼にしようと
お弁当を準備するところだった。
「お兄ちゃん、何?」
「ちょっと話があるんだ、出れない?」
「これから弥生ちゃんと、お弁当食べるんだけど……」
天音が言いかけながら、何か思いついた顔をした。
「そうだ、ちょっと待っててね」
教室に戻り、すぐに帰ってくる。
「ねえ、中庭のベンチで食べながら、話をしない?」
「別にいいけど……」
「じゃあ、お兄ちゃんもお弁当取って来て十分後に現地集合ね」
あの表情は、何か企んでいる顔だ。
まあ、今回は乗ってやるか……
十分後、校舎の中庭に着いた、
ここは天気の良い時など、生徒がお昼を食べたり、
休憩したりする、本校生徒憩いの場だ。
県内でも珍しい堀抜きの井戸が、
ベンチ脇の校庭にあり、地下の天然水が湧き出ている。
我が中総高校のシンボルだ。
ベンチに着くと、すでにランチタイムは始まっていた。
「お兄ちゃん、こっち、こっち!」
天音が俺をせき立てた、
弥生ちゃんもベンチに座っている。
「あっ、猪野先輩、今朝はどうも……」
キョトンとした顔で、俺と天音の顔を交互に眺めている。
はは~ん、あいつ弥生ちゃんに俺が来るのは隠していたな……
「ここ、座って、」
天音がベンチの真ん中を空け、俺を座らせる。
弥生ちゃんと距離が近い……
朝の部活では、作業に夢中で意識しなかったが、
弥生ちゃんの体温まで伝わって来そうな距離だ……
彼女も、同じ気持ちのようで、
制服越しの身体がこわばっているのが雰囲気で分かる。
天音の作戦はこれが狙いか。
「さっ! 食べよ」
天音が、してやったりという顔で、
お弁当を広げ始めた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます