スマイル・アゲイン
「今日は付き合わせちゃってゴメン……」
「いえ、先輩と過ごせた事、すっごく楽しかったです」
教室で会う時に見せてくれる、元気な弥生ちゃんの笑顔だ。
弥生ちゃんを家まで送り、遅めの帰宅をさせてしまった事を、
家の人に詫びようと、インターフォンを押す。
お母さんが出迎えてくれた。
弥生ちゃんにどことなく似ている、明るい笑顔のお母さんだ。
「娘さんを、部活動の買い物に付き合わせてしまい、
遅くなってしまいました、申し訳ございません。」
お詫びをすると、お母さんは逆に恐縮した顔でこう言った。
「うちの弥生は年頃なのにボーイフレンドの一人もいないので、
また誘ってやってくださいね!」
「お母さん! 余計なこと言わないで、恥ずかしいから……」
弥生ちゃんが慌ててお母さんをたしなめる、
「あっ、ごめん、ごめん」
お母さんが明るい顔で笑う。
俺もつられて笑顔になる。
弥生ちゃんが明るいのは、このお母さんだからなんだな……
なんだか自分も、海外出張で不在中の母が懐かしくなる。
「天音ちゃんにもよろしくね」
お母さんが、帰り際に声をかけてくれた。
そうか、天音の事も良く知っていてくれるんだな。
玄関前まで、弥生ちゃんが見送りに出てくれた。
「じゃあ、また明日」
「先輩、おやすみなさい……」
ペコリとお辞儀をしてくれて、また満面の笑顔になる。
弥生ちゃんの家から続く道を歩き、ふと振り返る。
まだ見送ってくれていた。
にっこりした笑顔のまま、軽く手を振ってくれた。
振り返った時、一瞬悲しそうな表情に見えたのは気のせいだろうか……
結構、遅い時間になってしまった。
帰路を急ぐ。
自宅に到着すると、親父の車が無い事に気が付く。
今日は、大学の講演会の準備があるので遅くなると、
今朝、言っていた事を思い出す……
天音はもう寝てしまっただろう。
静かに玄関ドアを開けると、まだ灯りが点いているのに気が付く。
リビングに入ると、天音が寝ないで待っていた……
「おかえり、お兄ちゃん」
テーブルを見ると、夕食の用意がしてある。
「お前、待っていてくれたんだ……」
「うん……」
何だか、心配そうな顔をしている。
「天音、どうした?」
「お兄ちゃん、ありがとう……」
「んっ、何が?」
「弥生ちゃんの事」
知っていたんだ……
天音は多くを語らず、早く食べてねと、
言い残して、二階に上がっていった。
天音の、弥生ちゃんに対する優しさが感じられた……
俺はリビングの椅子に座り、上を見上げ、
そのまま、天井部分の虚空を見つめながら物思いに耽った……
弥生ちゃんの最後の言葉がリフレインする……
「もし良かったら、天音ちゃんと先輩の夢に私も乗せてくれませんか?」
今晩だけは、弥生ちゃんに対する想いだけに、気持ちを巡らさせてくれ……
明日からは、俺たちの夢に専念するから。
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