百合と美甘
美濃が本堂を出てから美甘はすかさず百合を背後から抱き締めた。
「どうしてなのです百合様! 美濃などに九尾の姉妹の面倒を見させるなど! 私ではいけなかったのですか!? どうして私ではないのです!?」
着物の上から百合の身体を
「いいですか美甘、あなたでは九尾の姉妹に教えられることがないのです」
っと口にしたのだった。美甘は急いで百合と面と向かいその眼を見た。一度決心した妖狐の長の瞳は揺らぐことがないと察したが、それでも彼女は食い下がった。
「私には娘がおります! それに対して美濃には子が一人もおらんではないですか!
愛することを教授するのなら、あやつ以外の子を持った母ならば!
母ならば誰でも良かったはず! でも、どうして奴なのです!
あの生意気な空狐に!
愛を教えることなぞできるのですか!?」
狂乱した美甘の言動を聞いてもなお、百合はその決心を微動だに動かすことなく淡々と答えた。
「美甘、よく聞きなさい。あなたでも、他の子を持った母ではこの任を果たすことができないのです」
「だから! どうしてなのですか!?」
百合は狂わせるような妖艶を纏わせるほどの黄金比を成立させた角度で首を少し傾げた。
「美濃がここに来て、彼女は誰とも愛を育むことをしていない。そして、里の者達も彼女のことを厄介な者と決めつけている。
本当の彼女は、そんなことはないのに。
ただ、彼女は傷ついた心を未だに癒すことができない可哀想な女狐」
美甘は百合の口から出てくる言葉に眉間に皺を寄せることしかできないでいた。
「だからどうしたというのです!」
美甘の荒れた声を聞いて、さらに百合は続けこう言った。
「九尾の姉妹を愛すること。それによって、美濃も愛を知る事になるでしょう。
傷ついた孤独を知る者達が愛に傷つき、愛を知り、愛に救われる。
何より美濃には子がいない。
子がいない美濃に、子を持つことの尊さを知ってもらうためでもあるのです。
そして、九尾の姉妹は、人と長く生きてきました。
彼女達は人の心を持ち、知っている。
美濃は長年妖狐としてここに住まい、人の心を忘れてしまった。
彼女は芯から妖狐となった。
だから、美濃に人が持つ、我らよりも気高い心と、優しさという尊さを知ってもらい、
九尾の姉妹には妖狐、いえ、妖怪としての心を知ってもらう。
これが、私が美濃に彼女達を一任した理由です」
彼女の話を最後まで聞いたが、結局美甘は納得することができなかったが、百合の表情から察するに、この話はもうここで終わりなのだ。
「承知致しました、百合様」
そう発した美甘は唇を噛み締めながら、百合の懐に入り込んで子供のように甘え始めた。百合は美甘の髪を手で梳かしながら、母のようにずっと愛でたのであった。
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