第四回

 登校中の姫子の許に人力車が現れそこから誰かが降りてくる。


 ○女学校付近・朝


一寸ちょっと、止めて頂戴──(駆け寄りながら)姫子、よかったわ、貴女あなたも一緒に行きましょうよ」

「え、お姉さま! あっ──」


 登校中の姫子を突然人力車に乗せ何処かへ連れてゆくユリ子。


 ・暗転


 ○劇場・同


 時間を潰した後連れて来られた劇場で戸惑う姫子。


 「(通いの服装のままチケットをもぎられることに戸惑う姫子)……」


 ○劇場外・昼過ぎ


「嗚呼、お姉さまはどうしていけないことばかり……」

「(姫子の側に寄って)そんな不良みたいに言わないで頂戴よ姫子」

「お姉さまは不良です! お姉さまを止められなかった姫子も不良になってしまいました。お許しくださいお父様」

 「(小さな子供に頬ずりをするようにしながら)声を荒らげる姫子も可愛かわゆいわ」

「もう知りません」

とそっぽを向く姫子。


 *


 「(姫子の前を歩くユリ子が振り向きざまに)露西亜文学トルストイよ。(立ち止まって)良かったでしょう」

 「(ユリ子の前で立ち止まって)私、小説なんて読みません」

「(姫子の顔を覗き込んで)怒ったの姫子。堪忍して」

 「(俯いて)……」

「お願いだから口を聞いて頂戴。このとおりよ姫子」

 「……」

「姫子と一緒にどうしても観たかったから、つい──ね。わかるでしょ姫子」

「姫子はわかりません。聞き分けのないのはお姉さまの方です」

「もう女学校をサボって観劇に行くなんてしないわ。約束よ」

「授業をサヴォタージュするなんて……」

「もうしないわ。絶対よ」

「本当ですか」

「神に誓ってヨ」

「本当ですね」

「本当よ。聖母マリア様は見ていなくとも姫子様が見ているんですもの」

「マァ……」

「嗚呼、ごめんなさい姫子。許して」

「反省してくださいお姉さま」

「するわ。金輪際サボったりしないわ」

「──わかりました。お姉さまがそこまで仰るなら、姫子もうは許します」

「マァ、良かったわ姫子! 嬉しいわ姫子! 大好きよ姫子! ホントのホントよ。信じて」

「もうわかりましたから。やめてください……なんだか恥ずかしいです、お姉さま」

「わかったわ、もう言わないッ──あッ、そうじゃアなくてね。今のは言葉の綾よ。ネ」

 「……あの、お姉さまが姫子と観劇にきたかったのはよくわかりましたから。その、お姉さまにそう仰ってもらえて嬉しかったです。ですから、その、さっき『わからない』と言ったのは言葉の綾ですから」

 「矢っ張り好きよ姫子!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る