第三回

 避暑地でユリ子と向かいの姫子はT型フォードに乗せられ街へと向かう道中であった。ユリ子の突拍子もない行動には慣れているつもりであった姫子も、行き先も告げられないままに自動車に押し込まれてはユリ子の持病の発作とでも思って諦めるしか他になかった。


 ○街への道中・昼


 「どうしたものかしら姫子ったら。そんなに自動車からの景色が珍しくて?」

 そうではないと言いたげに

 「自動車は初めて乗りましたけれど……何処へ向かっているのですか、お姉さま」

 「貴女は何処がいかしら姫子。舶来雑貨を見に行くのは如何──そうだわ、お昼も済ませてしまいましょう。姫子はカリーライスとオムライスどちらがよくって? それからソーダ・ファウンテンにも行きましょうね」


 ○街中・雑貨屋前・同


 「さあ、着いたわ姫子。降りましょう。足許に十分気をつけて」

 「あの、ここは」

 「西洋舶来雑貨ですって、ちょっと見ていきましょうよ」


 ○同・店中(雑貨屋)・同


 先に店中へと入ったユリ子の後を追って

 「あの、此処へは何を」

 「何だっていいじゃないの。散策よ」

 と言って店中をぐるりと廻ったユリ子は店を出ようとすると

 「お姉さま、その、何も買わずに出てゆくなんてお店の人に申し訳ありません」

 「そうぉ、それもそうね。じゃア姫子に何か贈呈プレゼントしましょうね」

 「いけません。お姉さまに何かを頂く理由が私には御座いません」

 「もう、逐一理由の必要な子だわ。姫子は私と一緒にいるのに何か理由が必要なのか知ら」

 「誤魔化そうとしてもそうはいきません」

 「違うわ姫子。そうではないのよ。私はただ姫子が居ればそれで良くってよ。私が一緒に居たいのよ。理由なんて必要ないわ。それとも姫子が私と一緒に居るのは何か理由があるのかしら。我が言葉ながら意味深長だわ」

 「そんなことは、ありませんけど──」

 「それなら贈り物プレゼントにしたって同じよ。私が送りたいから送るのよ。嫌だったかしら?」

 「そんな事はありません! あの、姫子はお姉さまのことを悪く言ってしまいました」

 「いいのよ、姫子。私はそんな風に思ってないもの。(いま来た路を戻りながら)それより姫子、一寸こちらへ来て頂戴。姫子への贈り物なのだけれど、これなんてどうか知ら」


 ○食事シーン入れる


 ○同。仕立て屋前・同


 「最後はここよ姫子」

 「仕立て屋ですか?」

 「そうよ。ここはね、何時も私の洋服を仕立ててもらっている所なの。姫子、貴女あなた洋服の一つくらいお持ちなさいな。──さあ、採寸してもらいなさい姫子」

 「あの、お姉さま一寸ッ。姫子にはお話がよくわかりません」

 「今日は貴女の洋服を仕立てにここへ来たのよ」

 「そんな、さっき雑貨アクセサリーをお姉さまから頂きました」

 「それはこの洋服に合わせるつもりで買った品よ」


 *


 「秋頃には出来上がるそうよ姫子」

 「本当によろしいのですかお姉さま」

 「貴女も往生際が悪いのね姫子。もう、往生してしまいなさい」

 「そんな、往生しては困ります」

 「それもそうね。とにかく仕上がりが楽しみだわ。必然ぜったい似合うわよ。私が姫子に見立てたのだもの。事姫子に関して私が見立て違いをするはずないわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る