第二回

 予定の時間に遅れていた姫子は雪道を急ぎ足で歩いていた。二人だけのクリスマス会の件は父から許しをもらい少し浮かれ気味で居た。


○ユリ子宅・夕方


 「御目出度うユリ子さん」「おめでとう」と今日の主役である上級生は変わる〴〵お祝いの言葉を送られていた。歩くたびに言葉を送られ、「ありがとう」と返事をする繰り返しに飽き始めていた姫草ユリ子は姫子のことを待ち侘びていた。


 (どうしたのかしら姫子ったら)


 そんな中、女中さんに案内され大広間に招き入れられたばかりの姫子が眼前の人の数に驚嘆びっくりしているところであった。そんな姫子を見つけたユリ子は「あ、ユリ子さん!」「何処どこへ!」との声をかわすように「御免なさい」と言いながら姫子のもとへたどり着いた。


 「御機嫌ようさん。私のお誕生日会に来て頂いて嬉しく思いますわ。──良かったわ。中々いらっしゃらないものだから何かあったのかと思って心配していましたのよ」

 「今晩は姫草さん。ごめんなさい、その……父に頂くのに時間がかかってしまって」

 申し訳なさそうにする姫子は姫草ユリ子に連れられ──。

 「皆様、今日は私の御誕生日会にお越し頂きまして大変嬉しく思いますわ。私は少し外しますが、皆様どうぞお時間まで会をお楽しみくださいませ」

 そう言って姫草ユリ子は姫子と共に階段を上がって行き、自らの部屋の前へとたどり着いた姫子の背中を押すように中へと招き入れた。


 ○同・ユリ子部屋・夜


 「あの、、人が見ていました……」

 「まだ恥ずかしがっているのね、モゥ。姫子の言う通りに人前では他人のふりしたじゃァないの」

 「人前で手を握られては……」

 「なァに、意味深だとでも言うの。大丈夫よ、それくらいのこと。気にしすぎだわ──それより、待ち侘びたわ姫子。貴女あなたを待っている間の何と退屈なことか!」

 「お姉さまこそ、またそんなことを仰って、悪い癖です。人を邪険にするなんて」

 「マァ、怖い!」

 「(角卓テーブルに置かれた白ワインを開けながら)姫子も呑むでしょ」

 「お酒、呑んだことありません」

 「少しぐらい良いじゃない。お祝いごとなのよ。ね、そうしましょヨ」

 「少しだけなら」

 というやり取りのあと二人共席についた。



 「Merry Christmas。姫子」

 「御誕生日御目出度う御座います。お姉さま」

 「(角卓を離れながら)後で七面鳥の丸焼きターキーを持って越させましょうね。(と窓に寄って)それより、見て。冬だと言うのに月が綺麗よ、姫子」

 「(ユリ子の側に寄って)本当ですね」

 「貴女のものよ。姫子。今日はお目出度い日ですもの」

 「それでは私の誕生日みたいです」

 「いのよ」

 「あの、お姉さま。何時いつ渡そうか機会を失ってしまったのですが、これ、御誕生日の記念に」

 「何かしら──マァ、首巻きマフラーね。嬉しいわ。姫子」

 「雑誌に載っていましたので、御誕生日に間に合わせようと編み続けていたのですが、遅れてしまって」

 「それで今日は遅れて来たのね」

 「はい」

 「なァに、お父様にお許しを頂けなかったのではなくて?」

姫子は返事をする代わりにその頬を染める。

 「マァ、姫子が私の為に。本当に嬉しいわ。もう死んでもいいわ、私」

 「そんな、大袈裟過ぎます。お姉さま」

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