ランラン vs リンリン
3-11 デート with リンリン
部屋に戻ると、まだスヤスヤと眠っているリンリンがいた。
俺はついさっきロンロンにされたように、体を揺すってリンリンを起こした。リンリンは非常に寝起きが悪く、起こすのに大変苦労をした。
毎朝、この作業はロンロンが担当しているのだろう。ロンロンの苦労がしのかばれる。いや、ロンロンならば大喜びで妹とじゃれ合うか。
さて、本日は休暇になった。
リンリンは、ピエロ&ドラゴンを俺と一緒に辞めたと思っているはずである。実は俺が店側と通じていて、なんとか元鞘に戻そうと暗躍しているとは夢にも思っていないはずだ。
普段、家でご飯を食べるときはロンロンが担当をしているらしい。道理でロンロンは料理が上手いわけである。妹2人をずっと、食べさせ続けてきた。
今室内にいる2人は、どちらも料理を作ることができないので、俺たちは外にご飯を食べに行く。カフェのような店のテラス席に座り、2人でまったりとしていた。ちなみに俺はお金を1
俺たちは優雅な朝食を満喫しつつ、話を始めた。
「それで、この後どうする?」
「ほほあほ?」
「口の中に入っているものを飲み込んだ後でしゃべりなさい」
ゴクリ。
「この後?」
「行く当てもなくてダラダラしてても仕方がないだろ。せっかく時間が空いたんだから、何かしようぜ」
「そうだね...。じゃあ、デートに行こうよ!」
「デート?...俺とリンリンでデートするの」
「うん。それがいいね」
休暇の予定はデートで決まりのようである。
********
俺はリンリンと腕を組んで歩いている。昨晩から今朝にかけては寝たままで様々な部位を組んでいたのだが、今は立った状態である。
似た行為であるのに、全く違う趣きを感じてしまう。
腕を組んでいるときは男が一歩前にいた方が男として格好がつくような気もするのだが、リンリンはそんなことはお構いなしで俺より一歩前にでてリードしてくれている。
ガーッ、ガーッ、ガーッ
デートの雰囲気を台無しにする異音がうるさい。
その正体はカラスの鳴き声である。見上げると、頭に赤いトサカの付いた真っ白なカラスの群が飛んでいた。
フーン、フン、フフーン
リンリンはそんなことはお構いなしのようであり、カラスの鳴き声に負けないぐらいの声量で鼻歌を唄っていた。だいぶ、ご機嫌のように見える。
俺とリンリンがどこに向かっているのかと言うと、リンリンが前から行ってみたかったという美術館である。ただの絵や彫刻が飾ってあるわけではない。魔法を使ったアート作品の数々が見られるそうだ。
「あっ!ポルレーロだっ!見て、キン。ティラミスソフトの期間限定の新味がでたんだって!!」
リンリンは俺の腕から手を離し、大喜びして、甘味処に飛んでいってしまった。
新味も何もオリジナルの味を知らない。俺にとっては全部が新味だ。
リンリンはピンク色のソフトクリームを持って戻ってきた。スプーンが2本刺さっているので、俺とシェアしてくれるようである。
うん、デートっぽい。
そんな寄り道をしつつではあったのだが、俺たち美術館に到着をした。
イガグリと言うか、ムラサキウニと言うか、そんなトゲトゲしてるとしか言いようがない外見の建物であった。あれからアートを感じとれない俺にセンスがないのだろうか。
入り口でチケットを購入するところで、現在の美術館の展示内容を記した掲示を見つけた。
”驚き”と”煌めき”をテーマにした作品の数々がみられるそうである。
「ネタバレNG」
映画館にありそうな、美術館には似合わない不思議な注意文も書かれていた。
俺とリンリンは最初の展示スペースへと向かう。
室内に入ると、そこは100平米はありそうな床から壁、天井までもが真っ白な部屋であった。
奥を見ると、小さな絵が一枚だけ飾られているのがわかる。
部屋の中央には、なぜか南国に置いてありそうな、寝っ転がれる真っ白な椅子、”ビーチチェア”が置かれていた。
絵と椅子しかない部屋である。
もちろん、その絵が展示品なのであろう。よほど価値のある絵なのか、スペースを無駄にしまくった随分と贅沢な作りだ。
まだ美術館に入ったばかりであり、休憩するには早すぎる。
俺とリンリンは、椅子を無視して絵に近づいていった。
そして、絵を覗き込んだ。
タイトルは、「水の中」。
絵には、魚や水中に生息をしていそうなモンスターたちが描かれている。今すぐにでも動き出しそうな活き活きとした描写のされ方であった。
吸い込まれそうな1枚である。
贅沢に空間を使うのに相応しい絵な......気がする。
俺とリンリンは静かに、じっと10秒ほど絵を見つめていた。
次の瞬間である。
魚たちが、額の中から飛び出してきた。
まさか絵が動くだなんて思っていなかった俺は、びっくりして尻餅を着いてしまう。リンリンもまた、一緒になってコケてしまっていた。
そんな俺たちのことは気にせずに、絵からは、数百匹もの魚も群が噴出し続けている。
渦を描くように、泳いでいった魚たちは、やがて室内いっぱいに広がっていった。
そこはまさに「水の中」。
大きな部屋は決して贅沢に使われたわけではなく、その全てが展示物であったのだ。
魚が泳いでいるといっても、本物ではないのは見ていてわかった。
発光する魚たちは、魔法で作られた”紛い物”であろう。
それでも、本物以上に、絵で見たとき以上に”活き活き”として、室内を泳ぎ回っていた。
まさに、”驚き”と”煌めき”。
見事な仕掛けに度肝を抜かされたのであった。
「ヘヘヘヘヘヘ」
俺は、リンリンを顔を見合わせて思わず笑ってしまう。
2人で部屋の中央に置かれていたビーチチェアに寝そべって、魚たちの様子を観察する。
輝く魚たちは、言葉では表しきれないほどに美しかった。
どれくらいの時間が経ったのかはわからない。やがて、魚たちは元いる場所、絵の中へと1匹、また1匹と帰っていった。
俺とリンリンと椅子と絵のみがある空間へと戻ってしまう。
「水の中」と言うよりかは、「夢の中」にいるような展示品であった。
美術館の案内に沿って、他の展示品も見て回る。
「誰も歩んだことのない道」では、ガラス以上に透明、というか魔法によって完全にただの空間にしか見えない、”煌めき”ゼロの階段を歩かされた。
「空の上」では、下が全く見えない雲の上のような空間に、人が1人やっと乗れるくらいの幅の棒がたくさん浮いていた。それらの棒を飛び跳ねて渡っていくことで出口を目指していく。
中腹に差し掛かったところで、まさかのドラゴンが出没。俺は空から落下してしまった......はずなのだが、現実ではそうはならなかった。
棒も空も全てが幻影のようであり、空の上に浮いている状態でも下には床があるのだ。俺は綺麗に美術館側のトリックにはまっていた。
いい、お客さんである。
「もう1人の自分」では、目の前に壁一面を埋め尽くすほどの鏡があり、自分が映っているように見えた。ところが、その自分が手を振り勝手に動き出すのである。
俺はつい鏡の前に立つリンリンの方を見てしまう。リンリンは展示を楽しんでいるだけのように見えたが、本心で何を感じているのかはわからなかった。
そんなこんなで、俺たちはたっぷりと美術館のアートを味わって外に出る。お化け屋敷のような仕掛けの数々はいただけなかったが、十分すぎるほどにアートを満喫することができた。
リンリンも大満足の様子である。
デートスポットとしては、最高の部類に入ると思う。
********
美術館の後も俺たちは、いくつかの場所を回ってご飯を食べてと休日を楽しんでいく。
リンリンは元冒険者と言う事もあり体育会系である。体力がない俺は、リンリンについていくことで、夕方頃にはクタクタになってしまっていた。
俺たちは今、川辺に横並びで座って休んでいた。デートも終わりを迎えつつある。
川の中では、2羽の白いカラスがバシャバシャと水浴びしている姿が目に入った。
この川はもしかして、幼い頃のリンリンたちが飛び込んだ場所では、とも思ったのだが、特に聞きはしなかった。
「楽しかったね」
「リンリンのプランがよかったんだよ」
「うふふ、でしょ」
「間違いないね」
本物のカップルのように、いちゃついてみる。
「ねぇ、キン―――」
ここにきて、リンリンは本日ずっと避け続けてきた話題を口にした。俺からも決して触れることがなかったことである。
自分の双子の姉・ランランのことだ。
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