3-10 双子の過去

 話がある。


 この言葉の切り出しされ方は苦手だ。


 何故ならば、この後に続くのは重い話であることが多いからだ。


 真剣な想いを受け止め、答えなければならない。


 話が終わった後で、よくない空気で別れることも少なくない。


 ロンロンも今まさに、そんな真剣な話を始めそうな雰囲気であった。


 ロンロンはポツポツと、話を始める。


「我は、ずっとランランとリンリンを見てきた。幼い頃からだ。2人の見た目は似ているけど、性格は全然似ていない。我はずっとそう思って見てきた。


他人からは、性格もそっくりだと言われることがあるがな。


しかし、そんな妹たちには性格の上でもそっくりな類似点がある。ずっと、そばにい続けてきた我が思うんだから間違いがない。


妹たちは、2人とも融通が利かないと言うか、何と言うか、一度言い出したら誰が何を言おうとも、もう何も言うことを聞かない頑固な人間なんだ。


何か宣言をして、それを引っ込めたところを見たことがない。極度の”負けず嫌い”だとでも言えばいいんだろうか。


双子の2人で意地をはって競い合い、白黒はっきりとさせようとするんだ。


例えば、こんなエピソードがある。


それは、ランランとリンリンが5歳の頃のことであった。何がきっかけでそうなったのかは、我は見ていなかったからわからない。国内最大級の大きさの、川に架かる橋の上から、飛び込むことができるのかでどうかで2人は馬鹿な言い争いをしていた。


橋から水面までの距離は10mほどあったと思う。


もちろん、5歳児がそんなことをできるわけもない。


我は特に相手にはせずに2人の言い合いを見守っていた。飽きたら別のことに関心が映るだろうと。そのときはリンリンが飛べる派で、ランランが飛べない派であった。


次の瞬間、何が起きたのかはキン殿も予測がつくであろう。


リンリンは助走をつけて加速をし、橋の上から飛び降りた。


我は何が起きたのかわからずに唖然としてしまっていた。ランランもビックリして混乱してたのか、それともリンリンを助けようと思ったのか、何故か橋から飛び降りてしまう。


数秒のうちに、妹が2人ともいなくなってしまったんだ。


我は遅れて状況を理解した。橋の上から、川を覗き見ると、そこには意識を失って流されている妹2人が見えたのだ。当然、我は川に飛び込んで助けに向かう。


え?そのとき、我が何歳だったかって?


10歳には、まだ届かないくらいの年齢であったぞ。水面にぶつかった時の衝撃で、四肢がもげたかと思った。実は我はそのときまで、泳いだことがなかったのだが、不格好ながら泳ぎを習得して妹の救出に向かった。


2人を両方とも確保して陸にたどり着いたときには、だいぶ橋が小さくなっていたな。陸地についたランランとリンリンは大笑いをしていた。我もそれにつられて笑てしまったものだ。


ちなみにその後で、橋から3人が飛び降りたのを見た目撃者によって大騒ぎが起きたらしい。


治安維持兵たちまでもが呼び出される騒動になり、橋から飛び込んだ犯人として特定された我ら兄妹は、しこたま大人に怒られたことを記憶している」


 ランランとリンリンの意地っ張り具合というよりかは、無鉄砲さが、そしてロンロンの、幼い頃からのバケモノじみた運動能力がわかるエピソードであった。


「他にもあるぞ。橋から飛び降りてから、3年ほど経った頃のことであった。この時も何がきっかけでこうなったのかはわからない。2人は家の中で、国内の僻地の丘の上にある”ケロン大聖堂”まで、走って往復することができるのかどうかで言い争いをしていた。


”ケロン大聖堂”は、大人たちでも日帰り観光で行くような場所であり、走って目指すようなところではない。家からだと、大人でも往復で8時間はかかってしまう。


橋のときとは逆で、このときはランランが走れる派、リンリンは走れない派であった。


この後の展開もまた、予想ができるであろう。


我が気がつくと、2人が2人とも部屋から消えていたのだ。最初は近くにでも遊びに行ったのかと思っていたのだが、それにしては時間が遅い。


そんなときに、ランランとリンリンの会話を思い出した。まさかと思ったが、川の一件がある。連絡がないままで、時間が経つにつれて我は確信をした。2人は走りに行ってしまったなと。


川のときとは違い、すぐに命の危険があるわけではない。迎えに行こうかとも思ったのだが、どのルートで進んでいるのかがわからない。すれ違いになってしまうかもしれない。


我は家で大人しく待つことにした。


そして、12時間ほど経ってボロボロの姿になったランランとリンリンが帰ってきた。やはり、ランランとリンリンは走ってきたんだという。


何故走れない派のリンリンも一緒に行ったのかと問いてみたところ、ランランがずるをしないのかの監視をするために走ったそうだ。


意味不明である。



冒険者になったときも、冒険者になった後も、一度やると決めたらやめようとはしない。2人で何かと競い合う。


2人は言い出したことを絶対に引っ込めない”意地っ張り”なんだ」


 ロンロンはそう言った。


「別に意地っ張りであることも、負けず嫌いであることも、競い合うことも悪いことではない。いい方向に向かうこともある。


しかし、今回の件はよくない。


姉妹喧嘩の延長にしては度が過ぎている。


リンリンだって、ピエロ&ドラゴンを辞めたいわけじゃないんだ。リンリンは楽しそうに店で働いていた。


それなのに、2人で言い争ったやりとりだけで店を辞めようだなんて、そんなことは誰も望んでいないし、そんなことになるべきじゃない。


きっと、リンリンは自分で言い出したことを引っ込められずに困っている。


ランランもだ。本心では妹と一緒に働いていたいはずなのに、何も出来ずに歯がゆい思いをしているはずだ」


 リンリンは、店から去ることを望んでいるわけじゃない。


 勢い余って言葉を発してしまっただけだ。


 ロンロンの意見には、俺も同意であった。


「だから、キン殿。リンリンを助けてやってくれないか?」


「助ける?俺がか」


「うむ。店を飛び出すときにリンリンが頼ったキン殿ならば、きっと大丈夫なはずだ。リンリンが意地を張らずに店に戻れるように、上手な言い訳を作ってあげて欲しいのだ」


「......俺に、どうにかできるかわからないぞ。そんなのは結局、リンリンの気持ち次第だ」


「キンどのなら大丈夫だ。上手にリンリンを導いてくれるに決まっている」


「俺ができる範囲でならやるけど、結果には責任を取れない」


「その言葉が聞けたのなら安心だ」


 ロンロンは、本当に安堵をしたような表情をした。


「では、我は店の方に戻るぞ」


「リンリンには会っていかないのか?」


「今、リンリンと我が会ってもろくなことが起こる気がしない。ますます、頑固になるきっかけを作ってしまうだけだ。それならば、キン殿に全てを任せておいた方がいいであろう」


 ロンロンは、そう言ってその場を後にしようとする。


「ああ、そうだ忘れるところであった」


 ロンロンは、もう一言加える。


「ジェスター殿からの伝言である」


「ジェスターから?」


「”今日はリンリンと一緒に仕事を休んでいいから、相手してあげてね”


だそうである」


 店主のジェスターから臨時休暇のお達しがでた。”休暇”ということは、リンリンも込みで戻って来いとのことであり、”今日は”とは、1日で全てを解決しろとの命令か。


 優しいんだか、厳しいんだかわからないメッセージである。


「さらに―――」


「さらに?」


「―――我からもう一言だけあった」


 ロンロンからの、追加の言葉が加えられる。


「万が一にもリンリンに手を出したら、今度は本気の決闘である」


「......出しません。出しませんよ」


 本当に殺されかねないことがわかったし。


 こうして、物騒な言葉を残して、ロンロンは去っていった。


 急に手に入った休日なので、どう過ごすのかのプランは何もない。


 どんな時間をの消費の仕方をするにしても、まずは部屋に戻ってリンリンを起こすことから始めなくてはいけない。

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