1-32 異常な結末

 隠されていたゴブリンの姿が明らかになった。



 ヘルヘルが使ったゴブリンは、「Lv.1-スモールゴブリン」である。


 そして、キンがだしたゴブリンは、「Lv.2-ノーマルゴブリン」であった。



キン : Lv.2 > Lv.1 : ヘルヘル



 キンの勝利である。


「やった...勝った...勝ったわよ!!」


 ジェスターは大喜びをしている。




「何故なのですか!?」


 ヘルヘルは雄叫びをあげる。



「私は完璧でした。


確かに、透視した結果、アタッシュケースの中身は、「1、2、3、3、4」でした。


そして、あなたがゲーム中に使ってきたのは、第1ターンから「4、2、5、1」です。



残っているのは「Lv.5-ゴールデンゴブリン」しかありません。


それなのに、何故「Lv.2-ノーマルゴブリン」があるんですか!!



これじゃあ、数が合いません。


―――まさか、やはり魔法を...。反則です!!そんなのは反則なのです!!!」



「反則だぁ?そういうのは、お前が使ったって自白した透視魔法だったり、第4ターンで使った入れ替えの魔法のことを言うんだよ」



 俺は全て察していた。その上で黙って泳がしていた。


 勝利をつかむために。



「では、どうやって「Lv.2-ノーマルゴブリン」をだしたっていうんですか?」


「そうだな、例え話をしてやろう。


俺は、第2ターンで「Lv.2-ノーマルゴブリン」を使った。


もしかしたら俺は、そのゴブリンをゴミ箱に入れずにキープしていたのかもしれない。


そして、自分の袋の中にある「Lv.5-ゴールデンゴブリン」と入れ替えたのかもしれないな。


正直、お前がゴブリンを魔法で潰しだしたときは少しだけ焦ったぜ。もし、ゴミ箱の中を改められたらバレちまうからな。


だが、お前は俺のアタッシュケースの中身を確認して安心しきっていた」


「バカな!?


いつ入れ替えたって言うんですか?私はあなたから目を話さずに観察し続けていました。そんな隙なんかは与えていません」


「そうか?あっただろ。ゆっくりと入れ替えられる時間が」


「時間?.........あっ!」




 ヘルヘルは何かに気づいた様子である。




「そうだよ。お前がペナルティを受けて”燃えない亀ノーファイアータートル”に焼かれている間だよ。視界が真緑の炎に包まれて、痛みでのたうちまわっているお前は、俺が何をしているのか確認する暇たなかっただろ。その間にゆっくりと袋の中身を変えさせてもらったぜ」



「だとしても、そうだとしてもおかしいです!


私は、透視魔法を使ったのです!


透視魔法を使えば、例え「Lv.2-ノーマルゴブリン」をテーブルの影などに隠していたとしてもすぐに発見ができます。


あなたが袋の中身と入れ替えることができたのは、早くても第3ターン終了後のペナルティーを受けているときです。


その間、一体どこに、ゴブリンを隠していたと言うのですか?」




 隠せるスペースなんてどこにもない。


 ゲームによく使われている”布”はもちろん、”袋”にもだ。


 ヘルヘルはキン周辺にあるもので、この2つを除いたら、あらゆるものを透視で貫通して調べることができる。




 それなのに、ゴブリンは発見できなかった。




「おいおい。お前は知らないのかよ?


スカイカイコの糸を使ったこの世界の服は、透視魔法じゃ透かせないんだぜ。


透視魔法でも見られないんだ。


そんなことは、”魔法の世界”じゃ常識だぜ?」




 そう言いながら、俺は自分のポケットから「Lv.5-ゴールデンゴブリン」を取り出した。


 これこそが、本当は第5ターンに出されるはずのゴブリンである。


 俺は本来使わなくてはいけないゴブリンを、ただずっとポケットの中に放り込んでいるだけなのであった。




 これでは、いくら透視魔法を使おうともゴブリンは見つからないのだ。




 ヘルヘルは魔法に注意し過ぎたせいで、魔法以外への注意がおろそかになってしまっていた。


 俺は結局、魔法の世界で、何一つ魔法を使わずに”ギャンブル”に勝利した。





「それじゃ最後にやるべきことをやらなくちゃな」


「......やるべきこと?」



「ペナルティーだよ」


「!!」


燃えない亀ノーファイアータートルの鱗”だ。



「お前は、チップ10枚で、俺の「Lv.2-ノーマルゴブリン」に負けた。


「Lv.2-ノーマルゴブリン」に負けたら賭けたチップは2倍になる。


この場合はボーナスチップ含めて、”火種”20個分か?」



 20個分?60秒!!


 まずい、いくら何でもそんな長時間燃やされ続けたら、耐火魔法を使っていたとしても死んでしまう。



 キンがつかつかとヘルヘルの元に近づいてくる。



「待ってください。キンよ。金はいくらでも払います。だから命だけは―――」



 キンは拳を振り上げて、ヘルヘルの顔面をぶん殴った。


 ヘルヘルは後ろに吹っ飛んでいく。




「これで勘弁してやるよ!それにお前の命なんかいらねぇし、興味もねぇ。借用書だけ置いて、さっさと消え失せな!!」




 こうして、店の借金と店や土地、さらにはジェスターの身柄までかかったギャンブル”ゴブリンズ V(ファイブ)”は終了した。


 全結果は、以下の通りである。




―――第5ターン終了時―――


所持チップ数 : キン30、ヘルヘル−10


未使用ゴブリン :

<キン>   なし

<ヘルヘル> なし


使用済みゴブリン :

<キン>   4、2、5、1、2

<ヘルヘル> 5、3、4、5、1


キン  :3勝2敗

ヘルヘル:2勝3敗

―――――――――――




 ヘルヘルは、店内からいなくなった。


 何もかもが終わり、店でジェスターと2人っきりになった俺は、ヘルヘルから取り上げた”ピエロ&ドラゴン”の借金500万Dドリームの借用書をジェスターに向けてひらつかせている。


 これは、俺が手にした勝利の報酬だ。


 どう使おうが俺の自由である。


 そして、こんなことを言ってみた。



「さてと、お嬢さん。この店の宿代は一泊いくらでしたっけ?この紙で何泊できますか?」


「......ばっかじゃないの」




 俺は、もうしばらくの居場所を手にしたのだった。

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