エピローグ

1-33 地獄の異世界カジノ暮らし

 本当の地獄は、ヘルヘルを追い払った後であった。


 ジェスターは本日も普通に”ピエロ&ドラゴン”をオープンすると言い出した。


 しかも、俺に休みを与えてはくれなかった。


 俺は、精神的にも肉体的にもボロボロで、死にかけたいたばかりである。


 少しだけでもいいから休みが欲しかった。



 そんな俺の言葉は無視されて、普通に一晩、時短営業をするわけでもなく、フルで働くことになってしまう。



 ジェスター曰く、「死にそうになって死ななかったんなら、もっと死にそうになっても死なない」だそうだ。


 ......恐ろしい店主である。





 そして、最後に「悪くはないお知らせ」と「最悪のお知らせ」が、ひとつずつある。



 ますは、「悪くはないお知らせ」から。


 俺はヘルヘルと戦った日の夜に、クタクタになった状態で寝ようと思って寝室に行くと、ジェスターのベットの横に布団が一組置いてあった。


 ジェスターは、いつの間にか、新品の布団を仕入れていた。


 これは、ジェスターが俺を”ピエロ&ドラゴン”の一員として認めてくれた証拠だろう。


 俺はここにいてもいいんだ。


 別に、ジェスターと一緒に同じベッドで寝られることなんか期待してない。


 ......してない。


 とにかく、俺の居場所がここであると、ジェスターが正式に認めてくれた。




 そして、「最悪のお知らせ」である。


 俺の”ピエロ&ドラゴン”での立場としては、ジェスターの店に雇われた、住み込みの従業員ということで落ち着いた。


 従業員となったということは、そう「給料」が発生するのである。




 そんな話をしているときに、ジェスターが突如、何故か全く関係ない話を始めた。




「私たちは、同じ戦いを乗り越えて”絆”が深まったわ。そう、これは何よりも硬い”絆”よ。”絆”っていうのは、一緒に過ごした時間によるものじゃないのね」


「......」


「ああ、そうかこれが”愛”って感情なのね。私は人生で初めて人を愛したのかもしれない」


「......」


「この”絆”は誰にも壊すことはできないわ。もちろん「お金」なんてくだらないものじゃ、揺らぎすらしない」


「......、端的に言うと?」





「お金がないから、給料ゼロね」





 俺は、考えてしまう。



 もしも人生をやり直すことができるのなら、次はちゃんと「金」を払ってくれる職場で働きたいなと。


 給料ゼロの仕事なんて、死んでもしたくはない。


 「金」の額次第では、冒険者でも、殺し屋でも、命の危険があるようなどんな汚いビジネスでも、何1つ文句を言わずに完璧にこなしてみせますよ、と。





【第1章完結】

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