1-28 ゴブリンズ V【4】
俺は勢いよく、第3ターン開始の合図をしたのだが、現状の悲惨さは、俺が必敗にしか見えない現状は、何一つとして変わらない。
第3ターン開始時の場の状況は以下の通りである。
―――第3ターン―――
チップ枚数決定権 : ヘルヘル
所持チップ数 : キン1、ヘルヘル19
未使用ゴブリン :
<キン> 1、5、5
<ヘルヘル> ?、?、?
使用済みゴブリン :
<キン> 4、2、―、―、―
<ヘルヘル> 5、3、―、―、―
―――――――――――
考えれば、考えるだけ絶望的な状況が明らかになるだけである。
俺の手持ちのゴブリンの彫刻は、
1、5、5
である。
「Lv.5-ゴールデンゴブリン」が被ってしまっている。
つまりは、実質的に二択なのである。
「Lv.1-スモールゴブリン」を出すのか、「Lv.5-ゴールデンゴブリン」を出すのかしか選ぶことができない。
ゴブリンの選択肢が少ない以上に、所持チップ数が1枚しかないことが痛すぎる。
しかし、わざと負けるだけの未来が待っているんだとすれば関係ないと言えば、関係がないのだけれど。
それでも宣言通りに、最後まで戦い抜くつもりであった。
さて、ヘルヘルの指示は何であったか?
4、2、1、5、5
である。
つまり、俺は「Lv.1-スモールゴブリン」を出せと言われているのだ。
俺のゴブリンに対して、ヘルヘルは「Lv.2-ノーマルゴブリン」「Lv.3-ビッグゴブリン」「Lv.4-スペシャルゴブリン」のゴブリンを使って勝利することができる。
俺は、第1ターン、第2ターンの同じような動きで、赤い袋からゴブリンの彫刻をひとつだけ選び、布に包んだ。
このゴブリンによって、「勝負」が決まる。
ここまで、やれることは全てやり尽くしてきた。
後は、ただ自分の”未来”に全てを賭けるだけである。
俺は、布に包んだ彫刻を、そっとテーブルの上に置いた。
俺の動作に少し遅れて、ヘルヘルは自分の選んだゴブリンをテーブルの上に置いた。
現在は第3ターンである。
先攻のヘルヘルにチップを何枚賭けるかを選ぶ権利がある。
俺の残りのチップの枚数は1枚しかない。
よって、ヘルヘルが賭けるチップの枚数は決まっている。決まりきっている。1枚しかありえないのだ。
しかし、目の前にいるヘルヘルは何故かなかなかチップを前に出さない。
少し何か考えているような仕草をしている。
この場で考えることって何だ?
考えがまとまったのかヘルヘルが口を開く。
「......”信用”ですか。いいでしょう。
ここで賭けるチップの枚数は1枚です。そうです。それしかありえません。
しかし、あなた方が”特別な条件”をのむんならばこのチップに追加して、プラス3枚、合計4枚のチップを賭けてもいいでしょう」
「特別な条件?」
「この条件と言うのは、ジェスターと言う名の女よ。あなたに向けて出す条件です」
ヘルヘルはジェスターを指差した。
「ジェスターと言う名の女よ。キンと言う名の男を”信用”しているんですよね?
彼が勝利すると。
だとするならば、賭けるものを増額しませんか?
建物と土地だけではなく、彼の勝利に対して、もっと賭けられるはずです」
「......そんなことを言われても、私にはこの店以上に、資産価値があるものなんて何も持ってないわよ」
「いえいえありますよ。それは私たちの目の前にあります」
俺たちの目の前?ヘルヘルは一体何のことを言っているんだ?
全くもって、検討がつかない。
ヘルヘルは再び、ジェスターを指差す。
「価値あるもの、それはジェスターと言う名の女よ。
”あなた”自身です」
「私自身?」
「あなたの隷属を賭けていただきます。あなたは美しい。その美貌です。
欲しがる”男”たちはいくらでもいます。
きっとなかなかの「金」になるはずですよ」
ヘルヘルはとんでもない提案をし始めた。
ヘルヘルは第1ターンと第2ターンの結果を見て、俺が「裏切る」可能性はないことを確信したんだろう。
このまま、普通に第3ターンを終わらせれば勝利である。
しかし、それ以上に稼げる手段を考えついた。
ジェスターを売り飛ばすことである。
「金」をほぼ手にした状況でさらなる欲がでたのである。
そうすれば、下手したら店の値段以上の「金」が手に入るかもしれないと考えたのだ。
ジェスターも流石に、この提案を受けるはずがない。
リスクが大きすぎる。
店を失ったとしてもやり直しは効くけれど、自分を失ってしまったら二度とやり直しは効かないのである。
「いいわよ。受けるわよ」
「おい!ジェスター!!」
ジェスターは一切悩みもせずにヘルヘルの提案を承諾する。
俺はびっくりして反射的に止めに入ってしまう。
しかし、そんな俺の言葉をジェスターは完全に無視をした。
「いい。よく聞きなさい。私ももう一回だけ言ってあげるわ。
キンは”最強のギャンブラー”よ。
私がこの目で見極めて、”信用”したんだから間違いがないわ。
あんたみたいな雑魚じゃ相手になるわけがないわ。吠えずらかきなさい!!」
ジェスターの気持ちがこもった一言であった。
ジェスターは、俺が今、何をしているのかを何も知らずに、そう宣言した。
「ククク。ジェスターと言う名の女よ。あなたの選択をゆっくりと後悔しなさい。後悔する時間はこれから一生涯いくらでもあるのですよ」
ヘルヘルは自分の挑発に対して、ジェスターが乗ってくれたことを喜んでいるようだった。
なにせ、ヘルヘルの勝利は確定しているのである。
俺が、「Lv.1-スモールゴブリン」を出し、ヘルヘルがそれに勝つことができるレベルのゴブリンを出して終いである。
大金が手に入る。
笑いが止まらない理由もよくわかる。
「さぁ、ゲームに戻りましょう。私は4枚のチップを賭けます。あなたは1枚だけです。それ以上に賭けようがないですからね。
勝負が決まった後のペナルティーは、お互いが賭けている分だけ受けましょう。
私は4つ分、あなたは1つでいいですよ。
あなたはこれ以上燃やされたとしたら、死んでしまうかもしれませんからね。別に殺そうとまでは思っていないのですよ。それでは勝敗を決めましょう」
ヘルヘルは、自分のゴブリンに掛けられた布を手でつかんだ。
俺もまた、自分のゴブリンに掛けられた布を手で掴む。
「ゴブリン、オープン!!!!」
ヘルヘルがテーブルの上に置いたゴブリンは、「Lv.4-スペシャルゴブリン」であった。
キンが置くであろう「Lv.1-スモールゴブリン」に十分に勝つことができるレベルである。
ヘルヘルは思うのだ。
あぁ、これでようやくキンと言う名の男との勝負が終わる。
思えば、ゴンヘルの失態から始まったギャンブルであった。
あの大間抜けのせいで、私自らが後始末をしなければ行けなくなってしまった。
しかし、そのおかげで2つものを追加で入手することができた。
1つは、ジェスターと言う名の女を売った「金」である。
いくらで売れるのかは、私の腕次第である。中途半端な額では妥協しない。
商売人としての腕がなる。
そして、もう1つが、新たな部下である。
キンと言う名の男は、頭がキレる。それはわかっていたことだ。
そして、”ゴブリンズ V(ファイブ)”の中で、非常に従順な男であることがわかった。
自分の体が焼かれたとしても、私に反抗しようとの気を一切おこさない。
気に入った。
優秀で使い勝手のいい部下が手に入った。
そう言う意味ではゴンヘルに感謝しなければいけないのかもしれない。
”禍を転じて福と為す”とは、まさにこのことであった。
さぁ、あとはゲームの後処理をしなくてはならない。
チップを受け取って、キンと言う名の男を軽く燃やしておしまいだ。
いや、もう「
大丈夫だとは思うのだが、万が一にも死なれてしまったらことである。
せっかくの追加報酬のうちのひとつを失ってしまうことになる。
そんなことを考えながらヘルヘルは、自分の対戦相手がテーブルの上に置いたゴブリンの姿を確認する。
それは、「Lv.5-ゴールデンゴブリン」であった。
ふむふむ、よしよし、私の計画通りだ。
これで私の勝利である。
........................「Lv.5-ゴールデンゴブリン」!?
「はあぁぁぁぁああああ!!!!!!?」
ヘルヘルは、ギョロ目をとんでもないほどに大きく開いて、とんでもない大きさの声をあげて咆哮してしてしまった。
「Lv.5-ゴールデンゴブリン」だと?
まさか、このタイミングでキンと言う名の男が「裏切り」を選択した!?
遠くの方から声が聞こえてくる。
「どうしたヘルヘル。Lv.5-ゴールデンゴブリンで俺の勝ちだぜ。なんか想定外のことでもあったのか」
「きっ、貴様!!」
「これで俺のチップの枚数は5枚、お前は15枚だぜ。
遊びの時間はおしまいだ!!
まだまだギャンブルの結果はどうなるかわからないぜ?
さぁ、本当の勝負はこれからだ!!!」
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