1-19 猫の不思議な種明かし
セクシーな猫のお姉さまは、グラさんとモサモの財布をきっちりと空っぽにした。
対戦結果に満足をしたのか、カジノに場代を払って帰ろうとする。
そこで、俺は今までこのテーブルで使われていたカードをチェックしていく。
ある、ある、ない、ない、ない、ある、ない、ない、ある
”クラウン”と”ドラゴン”の絵柄を確認しながら、1枚、1枚作業を進めていった。
この作業によって俺の推測は、確信へと変わった。
店をジェスターに任せて、俺は店の外に出た猫のお姉さまを捕まえる。
俺が声をかけたところで、さして不思議そうな感じも出さずに、当たり前のように付いてきた。
人通りの多い場所で話をするのもどうかと思い、俺はカジノの裏通りで、俺とジェスターが初めて会った、カンテカンテラ商店街から一本道が外れた裏路地へと連れていった。
「こんなところに連れてきた、告白でもされるのかにゃ?それとも、もっと過激なことかにゃ?怖いにゃあ〜。」
俺は戯言をスルーして、前置きなどは一切なしですぐに本題の話を始める。
「あなたがカジノ内で、”魔法”を使っているとの気がつくのは難しくありませんでした。」
俺の投げかけに対して、彼女は反論も反応もしようとはしない。
俺が何を話すのかを楽しみにしているといった雰囲気である。
「あなたは、魔法を使っていることをあまり隠そうとはしていなかったです。
もし、隠す気があるならば、もっと慎重に賭けをしているはずですからね。
連戦連勝していたとしたら違和感を感じる人がいてもおかしくはありません。俺のようにね」
一拍おいて、核心に迫る。
「あなたが使ったのトリックは実にシンプルなものです。
トリックの要になるのは、小さな”毛”でした。
あなたは、”毛”を自分の手札に回ってきた”クラウン”のカードに付着させたんです。
普通の”毛”であれば、ゲームを進行していく中で、落ちてしまうでしょう。
しかし、魔法を使ってこの”毛”を接着してしまえば、落ちることなく、くっつけ続けることができます。
現に、俺が回収をしたカードのデッキの”クラウン”のカードには、全てに小さな”毛”が付着していました。
何枚かのカードに”毛”がついていたとしたら偶然かもしれません。
でも、”クラウン”のカードだけにピンポイントで、”毛”が、それもあなたの猫の”毛”が付いているなんて奇跡はありえません。
あなたは、自分の”毛”を付けることによって、”クラウン”のカードにマーキングをしたんです。
この魔法を使ったトリックが優れているところは、トリックの正体が、所詮は埃のような小さな”毛”であることです。
普通にプレイをしていたとしても”毛”ぐらいなら、くっついてしまう可能性があります。
仮に他のプレイヤーに見つかったとしても、払いのけておしまいです。
俺のように、全カードをしっかりとチェックしない限り、発覚はしないでしょう」
状況証拠から見て、おそらく正しいであろう答えを伝えた。
魔法の正体の全容が完璧にはわからないが、真実は遠くないはずである。
「もし、仮に”毛”を付けていたとするにゃ。そんな”毛”をどうやって見つけるにゃ?」
「...カードが場に出た時に、カードをしっかりと観察すれば見つかるでしょう。”毛”が見つかったらそのカードは”クラウン”です。見つけ次第”ダウト”すればいい」
そうすれば打率10割の”ダウト”ができる。
「それは、”毛”が裏面についていた場合だにゃ?」
そう言われた瞬間に、俺に衝撃が走る。
そのことには全く考えが及んでいなかったのだが、”毛”は全てクラウンの絵柄の横の表面についていたのだ。
毛を見つけられたことに喜んで見落としていた。
表面についている毛は、裏向きのカードが場に出されたとしても見つけることができない。
「裏面に何かが付いていたとしたら、にぶいグラさんでも気が付いてしまうかもしれないにゃ。グラさんは負けが込んでいたせいで、血眼になってカードのチェックをしていたにゃ。魔法の存在も疑っていたにゃ」
「......」
表面だからこそ、2人は毛の存在に気がつかなかった。
気付いたとしても目論見通りにスルーしてしまったのかもしれない。
俺は自分の推理の甘さに気付き、それ以上の考察が進まずに無言になってしまう。
「50点だにゃ」
猫のお姉さまに採点をされてしまった。
「ぜんぜんダメダメだにゃ。テストなら赤点にゃ。まだまだ修行不足だにゃ」
やれやれといったように首を振っている。
「いいかにゃ?お姉さまからのアドバイスだにゃ。魔法を使っているとわかったとするにゃ。それで相手を追い詰めたいのならば、魔法のナンバーと名前まではっきりと言わなきゃだめだにゃ。そうしないと、相手にはしらばっくれられて逃げられてしまうにゃ」
俺は何も答えられなかった。
「そんな悲しそうな顔をしちゃダメにゃ。...しょうがないから今回だけは特別だにゃ。お姉さまからのサービスだにゃ。
『探知系 no.544
これが今回使った魔法だにゃ。
この魔法は、自分の毛を付着させたものが自分の半径約30m以内にある場合は、その位置を探知できるものにゃ。範囲内にある限り、毛も対象物から離れないにゃ。これを使えば、”クラン”の位置ぐらいちょちょいのちょいにゃ。
ちなみに、人間の髪の毛でも使えるらしいにゃよ」
猫のお姉さまは親切にも、種明かしをしてくれた。
くっつけた毛の位置が自分に伝わる。
それで”クラウン”のカードの位置がわかったのか。
表面だろうが裏面だろうが、彼女の魔法にとっては一切関係がなかったのである。
「お姉さまの本業は”泥棒”だにゃ。カジノでのお小遣い稼ぎは副業だにゃ」
”泥棒”から、自分の正体が”泥棒”だと告白されるという貴重な体験をしてしまった。
「それでどうするにゃ?犯人は告白したにゃ。魔法でとった分の賭け金を没収するかにゃ?」
「...いえ。グラさんとモサモには、今回は涙をのんでもらいます。そもそも”スリースリーダウト”は、魔法ありのルールにしていました。テーブルに着席して、魔法を見つけられなかった時点で2人の負けです」
「そうかにゃ」
「それにカジノに損はないですしね。今回だけの秘密ですよ」
「にゃはははははは。太っ腹だにゃ」
猫のお姉さまは嬉しそうに笑っている。
「『重加系 no.110
そう魔法を唱えた猫のお姉さまが、足で地面を蹴ると体が大きく宙に浮いて、空を舞い、隣りの建物の屋根の上へと着地した。
重力がないかの如く、軽やかな飛翔であった。
「ちなみに教えてあげるにゃ。『
一瞬何を言われているのかわからなかった。
「あっ!!!!」
彼女が何を言っているのかを理解する。
猫のお姉さまは、”クラウン”のカードだけを1枚残す、48枚めくりを達成していたのだ。
賭け金の44倍のリターンを手にしている。
あのときも、”クラウン”のカードにマーキングをしていたんだ!
「魔法シロウトならあんなギャンブルしちゃダメだにゃ」
被害者は、グラさんとモサモだけではなかった。
我らが”ピエロ&ドラゴン”もしっかりと「金」が盗られてしまっていた。
”秘密”だなんて言っている場合ではなかった。
彼女はもう、俺の手の届かない所にいる。
「にゃはは。今晩は楽しかったにゃ。それじゃあ、また来るにゃよ〜っ」
そう言って、猫のお姉さまは屋根伝いに飛び跳ねていってしまった。
しっかりと「金」を持ち逃げされてしまった。
俺が考案したギャンブル、”ピエロはどこ?”は封印した方がいいかもしれない。
魔法が見破れない身では、44倍のリターンは大きすぎたのだ。
ここまで儲かるチャンスを与えたのでは、魔法使いたちに狙われてしまう。
魔法の世界でカジノを経営することの厳しさを知った。
”また来るにゃよ〜っ”
その言葉が頭の中でこだまする。
もう来ないでほしい。
そう思いつつ、俺はトボトボと、背中を丸めて店に戻るのであった。
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