1-18 ピエロはどこ?スリースリーダウト

 時刻は20時を回って、本日の”ナイフダーツ”が開始された。


 こちらのギャンブルは、ジェスターが料理の提供をしつつ管理している。



 そして、”クラウンorドラゴン”を少し前に終えていた俺は、もう1つ新たなギャンブルを開始する。


 このギャンブルは、ディーラーとプレイヤーが勝負をするタイプのものだ。



 その名も、”ピエロはどこ?”である。



 このギャンブルでは、49枚のカードを使って、7×7で四角形に並べる。48枚は”ドラゴン”のカードだが、そのうちの1枚が”クラウン”である。


 49枚並べられたカードを、選ばれた1人のプレイヤーがめくっていく。


 1枚ずつカードをめくり、クラウンのカードをめくってしまった時点でゲームオーバーである。


 プレイする1人以外の参加者たちも、目の前で行われているギャンブルにベットをすることができる。



 ”ピエロはどこ?”では、1枚もカードをめくっていない状態で全員がベットをする。


 プレイヤーが、8枚、16枚、24枚、32枚、40枚、48枚めくった時点で、ベットした額に対して還元される金額が増えていく。


 8枚めくった時点では、1.1倍とほぼノーリターンだが、枚数が増えていくにつれて、40枚で5倍、48枚で44倍とリターンが増額していく。



 参加者たちは、いつゲームから降りるのも自由である。


 降りた時点での賭け金に対する報酬が支払われる。


 ただし、賭け金がテーブルに乗っている状況で、クラウンのカードをめくってしまうと、ベットした賭け金は全てがディーラーのものとなる。



 プレイする1人の「強運」をどこまで信じられるのかの勝負である。




 常連客が多い店であるために、自分が賭けを任せる相手が知り合いであることも多く、”ピエロはどこ?”は思っていた以上の盛り上がりをみせていた。


 プレイをしたグラさんは、1枚目で”クラウン”のカードをめくったことによって、大ブーイングをあびていた。


 1/49を一発で当てるとは、逆に「強運」かもしれない。


 と、思っていたら、今度はセクシーな猫の獣人のお姉様が48枚めくりを達成した。


 彼女のことを最後まで信じられた人たちから、ヒーローとしてもてはやされている。


 店側としては勘弁して欲しいのだが、ギャンブルをしている以上は確率的に必ずあることなので仕方がない。


 全ゲームのトータルでみて、最終的に利益が上がれば良いのである。




 さて、ここで俺は1つ学んだことがあった。


 スカイカイコの糸によって作られた透けない服に関することである。


 当然、元の世界では聞いたこともないし、存在もしない単語だが、”スカイカイコ”とは虫の”ガ”のモンスターである。


 この糸を使うことによって、透視魔法を防いでいたのだが、この糸は別に服にだけ使われているわけではなかったのだ。


 世の中には、絶対に見られたくないものは数多くある。



 そんなものにも、スカイカイコの糸は編み込まれている。


 現在俺が使っているカードも透視魔法防止仕様となっていた。



 ”ピエロはどこ?”は、透視魔法を使えば、最後の一枚にクラウンのカードを残すことは極めて容易である。


 透視魔法がある以上は、賭け金が少なくても”実行するのが危険なギャンブル”なのだ。


 いや、危険を通り越して、自殺行為だと言ってもいい。



 ジェスターは、カジノを1人で始めた当初は存在を知らなかったらしいが、この世界のカードは、作るときに「透視魔法防止仕様」にすることができた。


 多少値段は高くなったとしても、カジノではこのカードを使うメリットはかなり大きい。



 透視魔法以外にもあらゆる不正の手段はあるが、防げるものは防ぐべきであり、ジェスターも魔法を防ぐ手立てを講じていた。


 とりあえずは、ピエロ&ドラゴンのカードを使ったギャンブルの中で、透視魔法の心配をする必要は一応はないらしい。



 その話を聞いて俺は、”ピエロはどこ?”を実行してみる気になった。


 ただし、何があってもいいようにと、ゲーム内で起きたことを記録して、確率的におかしなことになっていないのかの注意は怠らない。



 現状では、”ピエロはどこ?”は、やってよかったかなと思っている。




 22時となって、お客さん同士の対戦型のギャンブルとして行なったのが、”スリースリーダウト”である。


 ”スリースリーダウト”も順調にゲームが進行をしているのかと思いきや、ここで事件が発生することになる。



 これは3人のプレイヤーによって、3枚ずつのカード、合計9枚のカードを使った「ダウト」である。


 9枚のカードの内訳は、4枚のクラウンのカードと5枚のドラゴンのカードである。


 これらのカードをプレイヤーに対してランダムで3枚ずつ手札として配っていく。



 3枚全てがドラゴンとなることもあれば、その逆もあり得る。



 プレイヤーたちは、手札が何であろうが関係なく、強制ベット額の500Dドリームをテーブルに乗せる。


 その後で、手札の内容によって、”コール”、”レイズ”を繰り返していき、最大で3,000Dドリームまで賭け金を積み上げることができる。



 自分の手札では勝負できないと思った場合は、”フォールド”をして降参する。


 ”フォールド”をしてしまった場合は、それまでの賭け金は他のプレイヤーのものになってしまう。



 さて、賭け金の折り合いがつき、ゲームが成立した場合、プレイヤーはあらかじめ決められた順番で、1人がカードを1枚ずつ裏向きで場に出していく。


 他のプレイヤーは、そのカードが”クラウン”か”ドラゴン”のどちらかを予測する。



 ”クラウン”だと思ったら、「ダウト」をする。


 「ダウト」に成功した場合は、”クラウン”をだしたプレイヤーの賭け金が自分のものとなる。


 「ダウト」せずに「ダウト」もされなかった、何もしていないプレイヤーの賭け金はそのまま戻ってくる。



 「ダウト」に失敗して”ドラゴン”のカードだった場合は、「ダウト」したプレイヤーの賭け金が全て”ドラゴン”のカードを出したプレイヤーのものとなる。


 また、1枚目のカードや9枚目のカードで「ダウト」に成功した場合は、3人分の全ての賭け金が自分のものになるボーナスがついてくる。



 このギャンブルは、基本的には自分の手札の”ドラゴン”のカードが多い方が有利である。


 ”ダウト”成功率がかなり上がり、自分はリスクなくカードを場に出せる。



 自分の手札に何があるのかによって、勝負の仕方が変わってくる。


 対戦相手の賭け金の上乗せ方によって、相手の手札の中身を予測するためのヒントになる。



 誰かが降参をしたらゲーム終了である。


 カジノとしての収益としては、そのときに「金」がプラスになっているプレイヤーから10%の場代をいただいている。




 さて、この”スリースリーダウト”でどんな事件が発生したのか?



 テーブルについているのは、結局は今日の営業時間終了まで、店にいて金を落とし続けてくれそうな勢いのグラさんと魚屋の蜥蜴男(名前はモサモだと聞こえた)、そして、先ほど48枚めくりに成功をしたセクシーな猫のお姉さまである。


 ”スリースリーダウト”は、参加したい人数によって、複数のテーブルを使って2、3のゲームを並行して行なっている。


 俺は監視役として全体を見ていた。



 このテーブルでは、猫のお姉さまは、グラさんとモサモをけちょんけちょんにやっつけていた。



 そして、俺が後ろから猫のお姉さまの手札のカードをのぞいていると、クラウンが3枚ある”ダウト”されたら即負けの絶望的な手札であった。


 これはついてないなぁ、と思っていたら、猫のお姉さまは、賭け金をMAXまで釣り上げ、2人の6枚の手札の中に隠されている1枚しかない”クラウン”のカードを見事に”ダウト”していた。



 ...この猫、完全にやっている。



 俺は、セクシーなお姉さまのプレーを見ながら、魔法が使われていることを確信をした。



 実は”スリースリーダウト”では、”魔法あり”のルールにしていた。


 プレイヤーは魔法を自由に使うことができる。


 ただし、魔法を見破られてしまった場合は、ペナルティーとして、見破った人に対して、20,000Dドリームを支払わなけえればいけない。


 つまりは、20,000Dドリームを罰金として失うリスクを冒せば、”魔法”の利用が可能であった。


 このルールは、観客たちにも適応され、観客はノーリスクで金を手にするチャンスがある。


 観客たちは血眼になって、ゲームを覗き見していた。



 普通に魔法禁止にすればいいところを、なぜ俺がそうしたのかと言うと、実際にはどんな魔法がギャンブル中に使われるのかを見てみたいとのところがあった。 


 実験的な試みである。



 お客さん同士の対戦でこのルールにしておけば、魔法を使われたとしても店のリスクを最小限に抑えて観察ができる。


 そして、事前に了承を取っているので、魔法が発覚してもお客さんが騒ぐことはない。


 ”魔法あり”のルールが原因なのか、”スリースリーダウト”は他のギャンブルに比べて少しテーブルに着く人数が少なくなっていた。


 ただし、観客は人数は多い。


 よほどの自信か無謀さがないと、わざわざテーブルに着こうとは思わないのかもしれない。




 セクシーな猫がどんな魔法を使っているのか、検討もつかないままで、次のゲームが開始される。


 俺はなんとしてでも、どんな魔法が使われているのかを見破りたい。



 「金」が欲しいわけではなく、後学のためである。


 数万の「金」よりも遥かに価値のある情報が手に入る。




「モサモ、ここは共闘だ。なんとかこの猫を倒すぞ」「グラさん、任せろ」「男二人掛かりで怖いにゃあ」




 ...完全に手玉に取られてやがる。




 またも”ダウト”に成功をして、猫のお姉さまが勝利した。



「ちくしょう、カードチェンジだ」


「そんなことしても無駄だにゃあ」



 グラさんが要求をした使うカードの交換に応じて、俺は別のカードのデッキを渡す。


 カードチェンジは要求があれば、基本的にはいつでも行うことが可能である。


 ところが、これが功を奏したのか、場の流れが変化したのか、次の勝負はグラさんが、その次の勝負はモサモが勝利した。


 猫のお姉さまは、俺が見ている間では珍しい2連敗である。



 ただし、グラさんとモサモにとっての幸運は長くな続かずに、数ゲーム経ってしまうと猫のお姉さまが、またもや連戦連勝の無双状態になってしまった。



「キン!これは透視防止用のカードだろうな!!」


「もちろんですよ」



 ゲーム内で、透視魔法は使えないはずである。


 それでも勝利が続くということは、別の何かがあるはずなのだ。




「...モサモ、これはもう「金」の問題じゃねぇ、プライドの戦いだ」「...おぅ」「男二人掛かりで怖いにゃあ」




 猫のお姉さまのプレイングは完璧というわけではなく、2人が勝利をすることもある。


 もし本当に全てのゲームで勝てるとしても。魔法が発覚しないようにと、わざと負けているゲームもあるのだろう。


 それとも魔法を使ったとしても”必勝”まではいかないのか?


 ここにヒントはないか。



 猫のお姉さまは、自分が”クラウン”のカードを出したことによってダウトをされてしまい、負けることが多い。


 さらに、カードを交換してすぐは負けていた。


 数ゲーム経って勝ち始める...、カードが一巡、マーキング?



 まさかと思い、先ほどまでテーブルで使われていたデッキのカードを隅々までチェックする。


 カードの表面、クラウンの絵柄の横に付着していた小さな毛を見つけて払い除ける。


 それくらいまで、しっかりと表裏、カードの淵まで調べ尽くした。


 

 それらしい痕跡は見当たらない。


 もうすでに、証拠隠滅した後だろうか。


 そもそもマーキングなんてされてなかったか。



 もしこれが、魔法でしか見えない文字で書かれた何かだったりしたならお手上げである。


 現在の俺には見破ることは不可能だ。



 ここは魔法の世界だ。


 ありとあらゆる可能性を考えろ。


 元の世界なら笑い飛ばしてしまうような発想ですら、この世界では当たり前に起こるのだ。


 小さな可能性であったとしても......、小さな毛?



 あの毛は”ねこ”のものではなかっただろうか?




 ここで俺は、考える。


 もしかして、こんな魔法もあるんだろうか?


 思いついた可能性の答え合わせをするのは、今ではなく、もう少しだけ証拠が出揃ってからであった。

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