1-17 ナイフダーツ

 ”ナイフダーツ”とは、その名の通りに、ナイフを使ったダーツである。



 カジノ内にあるダーツの的を使ってダーツをしていく。


 元の世界で見たダーツの的よりも、かなり大きな的である。


 そして、ダーツの”矢”の代わりにを”ナイフ”を投げていくのだ。



 的の中には、ポイントが描かれているマスがある。


 これは、元の世界のダーツと同じルールである。



 マスの形も元の世界のものとはかなり違っていて、正方形のマスがたくさん並んでいる。


 ダーツの的自体は円形なので、ホールケーキを縦横、直線に等間隔で切ったようなイメージである。


 的の端の方のマスはかなり小さめになってしまっているが、少なくともナイフが一本は刺さるようなサイズに調整をしてある。



 ナイフが的に刺さったら、そのマスのポイントが手に入る。


 これも、元の世界のダーツと同じルールである。


 マスから外れてしまったり、床にナイフが落ちてしまったら「0ポイント」になる。



 そしてこれから説明するのが、矢ではなくナイフを使ってダーツをするからこそ生じる特殊なルールであった。


 2つのマスをまたがってナイフが刺さってしまった場合は「0ポイント」になる。


 的にナイフが刺さったとしても、ポイントが入らないケースがあるのだ。


 かなり精密なナイフコントロールが要求される。



 ”ナイフダーツ”は元々は兵士たちの娯楽兼訓練用に開発されたものであり、その名残でルールが厳しくなっているそうだ。


 現在では兵士たちだけではなく、冒険者たちの娯楽用や訓練用にも使われているそうだ。



 ナイフはモンスターたちに対抗をする立派な武器として流通をしている。


 ナイフを専門にして扱う冒険者の”ナイフ使い”たちもいるそうである。



 ピエロ&ドラゴンで採用をしているのは、”ナイフダーツ”のゲームの一種で”テンナイフ”である。


 ”テンナイフ”では、1つのゲームあたりで1人10本のナイフを1本ずつ投げていく。



 1つのゲームが終わるまで、前に投げたナイフを抜くことはできない。


 いいマスに刺さったとしても、それはその後のゲーム中に投げるナイフの邪魔になってしまう。



 10本投げ終わった時点で、マスに綺麗に刺さっているナイフのみがポイントとしてカウントされる。


 一度刺さったとしても、ゲーム中に抜けてしまえば0ポイントである。


 マスの合計点がまずは自分の基礎点となる。




 さらにここからボーナスポイントがつく。



 1ポイント以上ついたナイフの本数の二乗のポイントが基礎点に加算される。


 10本全て指すことができれば10×10で100ポイント、9本なら81ポイント、1本だと1ポイントである。



 低い点数のマスであったとしても、たくさん刺せばポイントがつく。


 基礎点とボーナスポイントの合計で自分の1ゲームあたりの持ち点が決まるのである。



 対戦形式の”ナイフダーツ”では、10本投げた後の持ち点が最も多かったものが勝利となる。


 何人でも同時に対戦ができるゲームである。






 ここまでは異世界では一般的な”テンナイフ”のルールである。


 ここからが、ピエロ&ドラゴン仕様のルールである。



 ”ナイフダーツ”は、2時間を一区切りの1セクションの中で勝負が行われる。


 ゲーム一回あたり、ナイフ10本を投げるための参加費は、2,000Dドリームである。



 2時間の間ならば、一回あたり2,000Dドリーム払うことによって、何度でもゲームに参加をすることができる。


 2回、10本のナイフを投げるならば4,000Dドリーム、3回ならば6,000Dドリームが必要である。



 その中で、もっとも成績の良かったゲームのポイントが自分の持ち点となる。




 2時間経った時点で最も持ち点が多かったプレイヤーが参加費の総取りをする。


 ただし、この賞金からはピエロ&ドラゴンとしての手数料として10%ほど差し引く。



 前回行ったゲームでは、2時間で22回の”テンナイフ”のゲームが行われてたので、44,000Dドリームから10%引いて、39,600Dドリームが賞金として支払われた。


 これは、2時間のちょっとしたギャンブルの賞金としてはなかなか悪くはない額である。






 元の世界でもそうだったのだが、ダーツやビリヤードなどのゲームは好きな人は本当に大好きで、寝る間も惜しんで永遠とプレイをし続ける。


 ”ナイフダーツ”もその種のゲームである。



 ピエロ&ドラゴンで”ナイフダーツ”の賭けが行われているとの噂を聞きつけたのか、今日もナイフ投げの達人っぽい人が店に来て、カウンターでグラスを傾けながら、ゲーム開始の時間を待っている。




 ”ナイフダーツ”に必要な「投げナイフ」の技術はかなり難しい。



 ナイフは、矢とは違って簡単には真っ直ぐには飛んで行かずに、的に刺すだけでも、そこそこの技術が要求をされる。


 グラさんは初日に参加をしたのが散々な目に合っていて、次からは見向きもしなくなってしまっていた。



 勝利するために必要なポイントとしては、すでに素人では勝つ余地が一切ない水準になってしまっている。 


 それでも腕自慢の”ナイフダーツ”愛好家たちが、店へとしっかりと足を運んで来てくれている。



 今日の”ナイフダーツ”の賞金は、40,000Dドリームほどまではいきそうである。




 ここまで人気があるならば、ゲーム方法を改善していくのもいいかもしれない。


 例えば、20時から22時まで時間を固定して、毎日必ず勝負を開催する。


 今以上に噂が広がって人数が来るようだったら、的を2つに増やしてみたり、勝負が開催されていない的が空いている時間には、時間あたりの料金制で練習用に的を開放するなども考えられる。


 1週間に一度は、参加費5,000Dドリーム、10,000Dドリームの大勝負を開催するのもありかもしれない。


 ”テンナイフ”以外の種類の”ナイフダーツ”のゲームを増やすことも考えられる。




 ビッグビジネスの予感がしてきた。



 ちなみに俺は店がオープンする前に試しに投げてみたのだが、グラさんを笑えないほどのひどいポイントをだしてしまった。


 これもダーツ、ビリヤード同様で、素人じゃゲームが成立すらしない。



 そして、これが驚きなのだがジェスターは”ナイフダーツ”が、というよりかは”投げナイフ”が達人級に上手かった。


 小さな頃からずっと練習していたらしい。


 勝負に参加していれば、最高ポイントを争うほどの腕前である。


 これならば、将来はお客さんとジェスターとの対戦をしてみたり、ジェスターも参加費を払うことで勝負に参加する日を作るのもありだ。


 ジェスターが勝ってくれれば、参加費は丸ごと懐に入ってウハウハとなる。





 さて、この方式で”ナイフダーツ”をすることによって、何故ゆえに、”魔法を使われたとしても店が損をすることがない”のだろうか?


 そう。客同士が参加費を奪い合う形式なので、だれが勝利しようと店側の収益は変らないのである。


 魔法を使って不正をするものがいようがいまいが関係がない。



 ゲームが成り立たなくなってしまうので、ナイフダーツで魔法は禁止にしてある。


 発覚した場合の罰金は100,000Dドリームに設定をした。



 不正をしない参加者からしてみれば、魔法を使われてしまったらたまったものではない。


 ゲーム中の2時間の間、魔法の知識に乏しい俺やジェスターの代わりにしっかりと監視の目を光らせてくれる。



 さらには、後でナイフダーツ好きの1人に聞いたのだが、ナイフダーツでの魔法の使い方にはパターンがあり、そのどれもが慣れると見極められるとのことであった。


 身体強化関連の魔法を使えば、体の動きがぎこちなかったり、滑らか過ぎたりとする。


 ナイフ自体を操ろうとすれば、ナイフの軌道に独特のクセがでて、視界関係の魔法を使うと目が普段より見開いてしまったり体に力が入ってしまったりするとかなんとか。


 本当かよ、と疑ってしまう気持ちもあるのだが、これらは、ナイフダーツの長い歴史の中で培われてきたノウハウで独自の文化だそうだ。





 参加者の中には、冒険者としてナイフを使っているプロの”ナイフ使い”たちがいる。


 命がけでモンスターと戦うときには魔法なしとか言ってられずに、魔法を全力で使っていく。


 だからこそ、ナイフ投げで命中精度をあげるための魔法については完璧なまでに把握をしているのである。




 そして、魔法を使わない”娯楽”をしているつもりなのに、魔法なんて使われたら興醒めである。


 だからこそ、自分がギャンブルを楽しむためにも、厳しい目で監視をしてくれていた。



 そんな人が数人参加していれば、魔法で不正するのはかなり難しい。


 バレたらすぐに騒動が起きてしまう。



 俺とジェスターにすぐに不正を見破れと言われても難しいのだが、不正がやりにくい環境だというのならそれに越したことはない。


 ”魔法を見極められないなら、魔法を見極めなければいい”、もしくは、”見極められる人に見極めてもらえばいい”。


 それが俺の策であった。



 ただし、これはまだ参加費がそこまで高くないからこそ成立しているギャンブルの可能性がある。


 今後、先ほどのアイディアのように、5,000Dドリーム、10,000Dドリームと参加費を上げていき、不正をする者が大きく稼ぐチャンスを作ってしまうとしたら、想像もつかなかったような方法で魔法を使われてしまう可能性がある。



 複数人で何かを仕掛けてくることだって予想される。


 これは、今後の課題として頭の隅に置いておかねばいけない。




 ジェスターの父親は、どうやって魔法を防いでいたんだろうか?


 他のカジノは、どうやって魔法を防いでいるんだろうか?


 ジェスターができるのなら、もちろんやっているはずで、できないからこそのこのカジノの現状があるんだろう。


 今度ちゃんと話を聞かなければ。




 ピエロ&ドラゴンには、現在魔法を防ぐためのものとして、「賭け金を小さくするタイプのギャンブル」と「客同士で賭けをするタイプのギャンブル」の二種類がある。


 俺はそれぞれのタイプのギャンブルをもう1つずつ考案して、実行にうつしている。

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