1-11 First Gamble【2】
「ギャンブルだぁ?」
「ケケケ、そうさ。ここはカジノだぜ。異なる主張がぶつかり合うんだったら、”ギャンブル”で決めるべきじゃないのか、臨時従業員くん?」
男は挑発するような口調で勝負を持ちかけてくる。
「ばかなこと言わないでよ。受ける義理なんてない」
「心配しなくても、ギャンブルの内容はフェアなものにするぜ。時間もとらせない」
そういった男は、ゆっくりと調理場の方へと歩いていった。
そして、大小2つの空のビールグラスを持ち上げる。
「小」のビールグラス500mlくらい入る一般的なジョッキで、「大」は蜥蜴男たちが注文をしていた、2L入りそうなビッチャーぐらいの大きさのものである。
「その名も、”ビールグラスゲーム”」
「”ビールグラスゲーム”......、いったいどんなゲームなんだ?」
「キン!」
「ジェスター。内容を聞いた後でも、受けるかどうか決めても遅くはない」
受けたくなさそうなジェスターを止めて、俺は男に対して”ビールグラスゲーム”の説明を促す。
男はゲームの内容の説明を開始する。
「いいか、ゲームは”店員”と”客”に別れる。
俺が”店員”で、お前らは”客”だ。
内容はシンプルで、ゲームは1回で終わる。
”客”はテーブルの前の椅子に座って、目隠しをして”店員”を見ない。
その間に、”店員”は大小のビールグラスのどちらかを選び、そのグラスにのみビールをなみなみ注ぐ。
そして、もう一方の空のグラスと共に、テーブルの上へと置く。
テーブルの上には、満タンのビールグラスと空のビールグラスがあるわけだ。
しきりを使って、”客”側からはビールグラスが見えないようにする。
準備ができたら、”客”であるお前たちは目隠しを外して、テーブルの正面を向く。
もちろん、この際に立ち上がって移動をしたりと、しきりの裏にあるビールの中身を見ようとしてはいけない。
この際に、”店員”にどんな質問をしようが自由だ。
”店員”が何を答えるのか、答えないのかも自由である。
”客”と”店員”の駆け引きが行われる。
そして、”客”はビールグラスの中身のどちらが満タンかを答える。
当たれば、”客”のお前らの勝ち。外せば”店員”である俺の勝ち。
どうだ、シンプルなギャンブルだろ?」
2つのビールグラスのどちらが満タンかを当てる、どちらが勝つのかもわからない五分五分のゲーム。
確かに、内容的にはシンプルでわかりやすいゲームだ。
「ゲームで重要なのは、”音”を聞き分けることさ。
”客”は暗闇の中で、店員がたてる”音”をヒントにして、どっちのグラスにビールを注いでいるのかを聞き分ける。
もちろん、運んでいるときにもヒントはあるさ。
一連の動作の中で、様々な”音”が鳴る。
”店員”は、慎重に”音”を立てて”客”を欺きにかかる。説明は以上だ。」
男はグラスを持ったまま、窓に背を向けて2人が、外が見える方向にもう2人が座る、窓の近くにある4人掛けの席へと向かっていく。
そして、窓に背を向けてる側に座って大小のビールグラスを机の上においた。
「道具は俺が用意しよう。何度かこのギャンブルをしたことがあるんでね。
『転移系no.35
この男も魔法が使えたか。男がそう唱えると、目の前のテーブルに横の一面が空いている箱のようなしきりと、目隠しが2つ現れた。
のちに知ったのだが、魔法の『転移系no.35
一方通行で小さな物を運べる魔法である。
「準備は全て整った。さぁ、ギャンブルをしようぜ」
「いいだろう。受けてやるよ」
「キン!!」
ジェスターに強い口調で制されてしまう。
俺は、ジェスターを見つめながら説得する。
「大丈夫だジェスター。ルールは理解したし勝算はある。ギャンブルを受けようぜ」
「......信用できない」
「俺がもし負けたら、一生ただ働きでも何でもしてやるよ。お前の奴隷にでもなってやるさ。絶対に勝つ。だから、俺を信じて俺に賭けてみろ」
「......」
俺の説得に論拠も根拠もなかった。
「魂」だけを伝える。
しかも、出会ったばかりの男を信じろと言っている。
ジェスターはやや、不服そうな表情をしている。
全面的に信用はしてなさそうだが、ジェスターはもう止めはしなかった。
了承と受け取り、俺は男の真正面に座った。
ジェスターも、黙って俺の横の椅子に座る。
「ルールの確認だ。魔法でビールやグラスを出し入れしたりされたらたまらない。しっかりとルールに”縛り”を入れようぜ」
「いいだろう。ビールはこの店のその樽の中に入っているものを使う。他のビールを使うことは禁止だ。さらに、ビールグラスは、今、俺たちの目の前のテーブルの上にある店のマークが刻まれたこの大小2つのグラスだ。このビールグラス以外を使ってはいけない。”店員”は、これら以外のビールグラスを触ることも反則にしていい。後は、”店員”はテーブルにビールを用意するまでの時間は長くても3分以内だ。テーブルと調理場を往復して、ビールを注ぎ、運ぶ以外の余計な動作は禁止だ。純粋な五分五分のギャンブルにしよう。他に何か必要かい?」
男は、俺は何も不正はしないぞと言わんばかりにルールに”縛り”を加えていく。
これだけ”縛り”があれば問題はない。
不正は難しくなるだろう。
「最後に、確認だ。賭けるものは何だ」
「お前らが負けたら、俺は今日の売上をいただこう」
「ジェスター、今日の売上はいくらほどだ?」
俺は、ジェスターに確認する。
「10万
「それならば、キリよく10万
男はこれからのギャンブルが楽しみと言わんばかりの表情をしている。
「それじゃ、不十分だ」
俺は、その条件を拒否する。
予想外の返事に対して、男はムッとしたような表情になる。
俺は気にせずに自分の言いたい話を続けた。
「こっちが一方的にリスクを背負っているだけだ。お前もリスクを負わなくちゃ勝負にならない。そうだな、お前が負けたら一生この店の半径100m以内には立ち入り禁止にしよう。仕事でここに来てんだろ?借金の取り立て人が、借金の取り立てに行って、借主の所にいけなくなったとしたら、お前はお前の商会の中で、なかなか立場を失うんじゃないのか?」
「てめぇ...」
そして、右手を突き出して相手を指差しながら宣言する。
「ノーリスクで勝負しようなんて虫が良すぎるんだよ!
せっかくのギャンブルだぜ。
刺激的な勝負にしたいじゃないか。
賭けろよ、”お前の人生”!
俺らは乗せたぜ。
お前もテーブルにリスクをのせな!!
何かを失う覚悟がなきゃ、そんなの”ギャンブル”じゃないぜ!!!」
男は突然だされた条件に対して、少し怒りの表情を浮かべた。
少し考慮したあとで、その条件を了承する。
「いいだろう。条件はそれでいこう。俺は負ければ一生この店には近付かない」
俺と男は、睨み合う。
「それじゃあ、”ギャンブル”スタートだ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます