1-9 魔法を封じるカジノの秘策
カジノには、Minimum Bet(ミニマム・ベット)とMaximum Bet(マキシマム・ベット)が設定されている。
これらは、それぞれのカジノごとに設定をされた、ゲームをするテーブルでの「最低賭け金」と「最高賭け金」である。
ルーレット、ブラックジャックなどのカジノでプレイすることができる同じ種類のゲームであったとしても、テーブルごとに、この「最低賭け金」と「最高賭け金」が全く違う金額になっている。
テーブルごとに、カジノが自由な額を「賭け金」として決定することができるのだ。
そのテーブルでは、「最低賭け金」を下回る金額で「金」を賭けることができない。
また、「最高賭け金」を上回る金額でも「金」を賭けることができない。
例えば、Minimum Bet(ミニマム・ベット)が1,000
これが、Minimum Bet(ミニマム・ベット)とMaximum Bet(マキシマム・ベット)である。
ここで、話が少しだけ脱線する。
カジノの有名な攻略法として、「マーチンゲール法」がある。
これは、ルーレットの「赤黒」に賭けるゲームのように、1/2の確率で2倍になるギャンブルで使用できる方法である。
この手法は、端的に言うと、負けるたびに賭け金を倍にして、次のゲームに参加すると言うものである。
そして、勝つまでは絶対にやめない。
例えば、以下のようにゲームに参加して賭けていく。
1回目:「赤」に賭けるが結果は「黒」で外れ。賭け金「1
2回目:「赤」に賭けるが結果は「黒」で外れ。賭け金「(1
3回目:「赤」に賭けるが結果は「黒」で外れ。賭け金「(2
4回目:「赤」に賭けるが結果は「赤」で当たり。賭け金「(4
5回目:1回目の賭け金「1
この手法を使えば、5回目でも10回目でもいいので、いつか勝てば必ず1回目の賭け金が手に入るのである。
そして、1回目の賭け金に戻ってギャンブルを続ける。
算数的には必勝の手法である。
しかし、現実のギャンブルでは、「マーチンゲール法」を使うことはできない。
これは、Maximum Bet(マキシマム・ベット)が設定されていることが1つの理由である。
例えば、10連続で負けてしまえば、最初の賭け金の2の9乗で、512倍の賭け金をテーブルに載せなければいけなくなる。
この頃には、きっと「最高賭け金」の額を超えてしまっている。
Minimum Bet(ミニマム・ベット)は、あまりに小さな額でギャンブルをされ続けても、カジノが全く儲からないから設定されているそうである。
カジノ・ピエロ&ドラゴンは、この「最低賭け金」と「最高賭け金」を上手に設定して、不正を防いでいた。
ようは、Maximum Bet(マキシマム・ベット)、「最高賭け金」がめちゃくちゃ低い額なのである。
ピエロ&ドラゴンは、1,000
最大で、1,000
1ゲームあたりで、定食一食分ほどの金額でしかゲームに参加できないのであった。
不正をする者たちからしたら、こんな金額では不正をする旨味がない。
リスクを犯してまで、わざわざ何度もゲームをしに来ようとは思わないのである。
営業形態としては、もやはカジノというよりかは飲食ができるゲームセンターに近いのかもしれない。
パチンコ屋のスロットマシーンで”ゴト行為”をする人はいても、ゲームセンターのスロットマシーンで”ゴト行為”をする人はいない。
リスクとリターンが釣り合わない。
いたとするならば、なかなかの変人である。
店に来るのが、常連客が多いとのことも不正を防ぐのに役に立っているのだろう。
こんな店では一見の客はいるだけでも目立つし、それこそ何連勝もしてしまったら怪しすぎる。
ディーラーのジェスターからはもちろんのこと、皆の注目を集めてしまうのだ。
「魔法」を使ったとしても派手にはできない。
数ゲーム程度で、何かしらの不正をされたとしても、きっとカジノの儲けで相殺できるほどの額であろう。
お客さんたちも、お酒の勢いもあってゲームに盛り上がっていたが、「バカラ」では本来、分の悪い勝負となってしまうはずの”引き分け”に賭けてみたり、一緒のテーブルの客と飲食代を誰が持つかの勝負をしていたりと、勝手に独自のプレイをしている姿が見えた。
勝つためではなく、楽しむためにプレイをしていた。
この店の秘策とは、低すぎる「最高賭け金」と店の雰囲気によって、魔法を防ぐことであった。
「魔法」に「知恵」で対抗していたのであった。
もちろん、「最高賭け金」を下げてしまうと、店の利益も下がってしまう。
儲からないカジノになってしまう。
しかし、そこは現実の厳しさへの妥協であり、経営を続けることとの等価交換だったのだろう。
ピエロ&ドラゴンがカジノであり続けるための手法であったのだ。
ギャンブルで稼いだ額に、さらに料理と酒の売上を加えて、ジェスターが食べていくだけの「金」を稼いでいた。
そんなこんなで、俺の異世界での初めての夜は、カジノでの初めての夜はふけていったのである。
特に、肉体的に動き続けていたせいで、結構クタクタになってしまった。
ジェスター曰く、今晩の利益は、ざっくり20,000
俺の手伝いも多少は店に貢献できとのことだ。
ゲームをする回数が増え、いつもよりは売上が多かったらしい。
今晩は、俺にとって世界のルールが変わり、新たなルールを学んだ夜であった。
しかし、カジノの夜は、営業終了後にも終わらなかった。
歓迎できない来訪者によって、俺は戦いに巻き込まれることになる。
そういった意味では、今、この瞬間から本当の異世界の日々が始まった。
この夜に、ついに俺はゲームの”傍観者”としてではなく”参加者”として、最初の”ギャンブル”をすることになる。
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