エピローグ 

 歓喜の優勝から一夜明け。


 今日はスタジアムではなく、港町の観光名所ひしめく場所へ来ていた。

 辺りにはユニフォーム姿のファン・サポーターたち。

 目の前には、簡易ステージと、広がる海。


 今日ここで、優勝報告会が行われる。

 スタジアムは少し内陸寄りにあるので、ここが港町である事を忘れる時があるが、今日こうしてここにいると、改めて港町に自分が住んでいることを実感させられる。


 一夜明けて、選手たちが簡易ステージで優勝の報告会を行った。


 全員にこやかな笑みを浮かべていて、ファン・サポーターたちも終始和やかな雰囲気で進んでいった。


 そして、1時間ほどで終わり、俺と美帆は、会場を後にして、俺の家でゴロゴロと時間を持て余していた。


 昨日の疲れがどっと来ていたので、ほとんどの時間を昼寝に費やした。気が付けば外は真っ暗になっていた。



 俺と美帆はテレビで、今年のJリーグ全体の表彰式を見ていた。

 そして、今年年間最優秀選手に選ばれたのか、23番の選手。


「やったぁ!」

「いぇーい!」


 俺達が受賞したわけではないのに、ハイタッチを交わしてしまう。

 それくらい、俺と美帆は完全に浮ついていた。

 でも、今日くらいはこのまま……昨日の優勝に浸っていたい。けども、俺も覚悟を決めなくてはならない。


「美帆……」

「ん、何?」

「今から行きたいところがあるんだ」



 ◇



 車で向かったのは、閑散とした雰囲気漂う。俺と美帆にとっては慣れ浸しんだ場所。


「昨日はあんなに人がいたのに、なんか物寂しい感じだね」

「確かにそうかもな……」


 そう返事を返しながら、俺達はトリコロールカラーに電飾されたスタジアムを見上げる。


「それで、どうしてここに来たの?」


 美帆が気楽な様子で話してくる。まさか、今から俺が人生最大の大勝負をここでするとは夢にも思っていないのだろう。


 俺はふぅっと一息ついてから、ポケットに忍ばせておいた、青色の箱を取り出した。そして、その箱を手の上に乗せると、丁寧に箱を開く。


 中から出てきたのは、銀色に輝くリング。中央には、赤、青、白のトリコロールカラーの磨かれた鉱石が光っている。


「美帆……俺はお前が好きだ。これからも一緒に、二人で毎週週末にサッカー観戦していきたい。それだけじゃなくて、それ以外の人生も、もっともっと美帆と過ごしていきたい。だから、俺と……俺と結婚してください!」


 頭を下げて言い放った。プロポーズの言葉。

 長ったらしくて、ダサいけど、精一杯の気持ちを伝えた。

 後は……


 しばらくして、ずずっと鼻を啜る音が聞こえた。


 意を決して顔を上げると、美帆が一筋の涙を流してこちらを見つけていた。

 今にも嗚咽を吐いて泣き出しそうなほどに顔を歪めて、息を吐きながら懸命に首を縦に振った。


「はい……」


 かすれた声で、必死に出した美帆の答えに、俺は先ほどまでの緊張感が嘘のように、高揚感が高まってきた。


「ありがと……」

「どういたしまして……」


 気が付けば、俺も涙を流していた。

 俺は、ゆっくりと美帆の元へと近づき、その指輪を手に取って、美帆の薬指に付けてあげる。


 シャーレよりも美しい、光り輝く銀色とトリコロール。

 それを掲げて見せ、ようやく美帆が笑みを浮かべた。


「達也」

「ん? なんだ?」


 美帆は優しい瞳で俺を見つけて、輝くような笑顔で言葉を紡ぐ。


「これからも、二人で沢山。観戦して、応援していこうね!」


 俺はその言葉を受けて、今持っているすべての笑顔で答えた


「うん!」



 ◇



「達也、しーちゃん! 早くしないと、おいてくよ!」

「待ってママ!」

「あぁ! こら詩織! 待ちなさい!」



 人間は、新たに生命を育み、世代をつないでいく。

 そして、チームもまた、選手が入れ変わり、時代と共に変化していく。

 だが、服の胸元にあるここにある☆は、不変で変わらない。歴史の功績として、一生受け継がれていくのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

サッカー観戦彼女 さばりん @c_sabarin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ