最終節 優勝決定戦
季節は秋を終えて、ついに冬へと突入した。
今日は、関東でも雨または雪予報が出ていた時もあったが、なんとか雨も止み、天候は持ってくれそうな気配がする。
暑い雲に覆われた先に、歓喜の光が待っていることを暗示するような天候の中、スタジアムは、空いている席を探す方が難しいほど、見事なまでの満員に包まれていた。
「す……すげぇ……」
「ホント、凄いね……」
Jリーグの試合でも、お客さんってこんなに入るんだなと感動してしまうほどの集客数。もしかしたら、前に達成した歴代最多入場者数を更新するのではないかとまで言われているが、果たしてどうなるのであろうか?
ラグビーワールドカップの影響で、実に3カ月ぶりとなるお馴染みのスタジアムでの試合。
今日は最終節、対戦相手は2位の東京。
勝ち点差は3、得失点差は7。
よって、今日の試合4点差以上で負けなければ、優勝となる。
泣いても笑っても今シーズン最後、しかも優勝決定戦の大一番。
スタジアムには、今まで見たことのない数のメディアがいる。
カメラの数もいつもと違い、上空カメラまでついている。
この大一番の勝負を、生で見れることが嬉しい。
応援してきて早15年。悲願の優勝の瞬間を見るべく、俺と美帆はここにやってきた。
選手たちのウォームアップも終わり、選手紹介。
観客の盛り上がりも、歳々最高潮に達している。
そんな中、選手がピッチに入ってくる。
試合が始まる前だというのに、既に手が震えて緊張している。
俺一人でこんなに緊張しているのだ、ピッチでこれから戦う選手たちの緊張は、計り知れない。だが、それを乗り越えてこそ、その先に、優勝という二文字が待っている。
ピッチサイドには、優勝のシャーレが飾られている。
このシャーレを掲げるチームは果たしてどちらになるのか?
運命の90分が、審判の笛と共に、今スタートする。
◇
試合は、やはり四点差以上での勝利が必要な相手チームが、ハイプレスで仕掛け、高い位置からボールを奪おうとしてくる。だが、選手たちはプレスをかいくぐるように、テンポよく回していき、相手の思い通りにはさせない。
しばらくすると、両チームラフプレーが増え、ヒートアップする場面もちらほら見受けられ始める。
そんな中、迎えた前半26分。
右サイドから中央へパスを送ると、さらに左サイドへノーマークの選手へボールを流す。
前があいたと見るや、ボールを受けた選手は思い切りよくシュートを放つ。
これが、相手ディフェンダーのスライディングした脚に当たり、ボールを弧を描くようにしてキーパーの頭上を越えて、ゴールへ……!
見事な先制点が決まり、スコア1-0とする。
さらに、波に乗ったチームは前半終了間際の44分。
テンポよく中央でパスを回していき、ゴール前へスルーパスを送る。
これに反応したFWの選手が、ディフェンダーに囲まれながらも、上手く身体を使ってボールをキープして、狙いすましたシュート!
これが、ゴールに突き刺さり、スコア2-0とする。
選手たちに、一瞬たりとも油断はなかった。
完璧な試合運びで、前半2-0として終了する。
後半、相手がハイラインの裏のスペースにボールを供給するが、GKがペナルティーエリアから飛び出して対応する。
だが、後半20分ごろだった。
同じように裏のスペースに相手選手がボールを蹴り込むと、これをディフェンダーの選手がGKにバックパス。しかし、これが短くなってしまうと、狙いどころだと見定めた相手の高速FWが走り込んでくる。
慌ててGKが足でクリアを試みるが、その直前で快足FWの選手がボールに触れ、GKの脚は無情にも相手FW選手の足を蹴り上げる形になってしまう。
その結果、GKはこのプレイで一発レッド退場。一人少ない状況となってしまった。
優勝に向けて、神様というのは試練を与えるものである。
だが、選手たちは冷静だった。
しっかりとブロックを作り、この後も相手の得点を許さない。
そして、後半32分だった。
相手選手がオフサイドの後、素早くリスタート。
これを受け取った左サイドの選手がドリブルで一人抜き去り、ゴール前へドリブルしていく。
先程抜き去った選手が戻ってきて、対応に入るが、間合いを見て、中に切れ込んだかと思ったら、切れのあるカットインから縦に抜く。そして、思いきり左足を振り抜くと、キーパーの手をはじき、ボールはそのままゴールイン!
決定的な3点目を奪い。優勝へ大きく近づいた。
後半アディショナルタイムは6分の表示。
相手チームも必死に1点でも返そうと攻めてくるが、既に戦意喪失していた。
俺は泣きながらチャントを歌っていた。
小学校の頃、両親に連れられてきて始めたサッカー観戦。
そこから、早15年。美帆と出会う前、中学、高校、人生の3分の2以上をささげてきた。
気が付けば涙がこみあげてきていた。
ピッチがかすんで見える。
ピッチサイドのベンチでは、ベンチ外だった選手たちが、サポーターたちが歌うチャントに合わせて飛び跳ねて、その歓喜の時を待ちわびている。
そして……
『ピィ! ピィ! ピィィィ!!!!!』
鳴り響く、ホイッスル。一斉にスタジアムに湧きあがる歓喜の声。喜びを爆発させる選手とサポーター。
天を仰ぐ者、抱き合う者、両手を挙げて喜ぶ者。
その姿を見て、俺は顔を歪めながら一筋の涙をこぼした。
同時に、隣から大きな衝撃を受ける。
見れば、美帆が嬉しそうにしながら、俺に抱き付いてきていた。
美帆の目元にも、涙が溜まっていた。
耳元で、美帆が囁く。
「やったね。達也!」
俺は、美帆を抱きしめ返して、耳元で言った。
「うんっ……!」
お互いに鼻を啜り、涙を流しながらも、遂に勝ち取ったチャンピョンという座。
人生の中で、今が一番幸せな瞬間、そんなことを思った。
◇
表彰式でチェアマンから銀色に輝くシャーレを手にしたキャプテン。
「オオー!!」
っと仰ぎ、ために貯めて……!
シャーレを上に掲げた。
紙吹雪が舞い、トリコロールのテープが舞い散る。
こんなにも素晴らしい光景を、この目に焼き付けることが出来て、本当に良かった。
もうどれだけ泣いただろう。
どれだけ抱き合っただろうか。
どれだけ喜び合っただろう。
こんな瞬間、人生でもう二度と見ることが出来ないのではないだろうか?
サッカー応援歴15年。ついにつかみ取った悲願のタイトル。
感動で涙が止まらない。でも、皆笑顔が溢れている。
最高の瞬間がここにはあった。
本当におめでとう。そして、本当に感動をありがとう。
こうして、今シーズンのリーグ戦も、一年の日程を終えて、新たな歴史の一ページに名を刻んで、幕を閉じだ。
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