第33節 過去を払拭するために……

「凄いカメラの数……」


 テレビ越しに映るスタジアムにいる報道陣の数に、そんな言葉を零す美帆。

 俺もそうだ。こんなのは6年前のあの日以来だ。



 ◇



 6年前……当時受験生だった俺は。受験勉強に専念するため、サッカー観戦から身を置いた。


 当時は美帆とも出会っていない頃だったので、そこまでチームに対する愛着というものはあまりなかったかもしれない。

 しかし、俺が受験勉強でもがき苦しんでいるのとは裏腹に、そのシーズンは絶好調。気が付けば、後1勝すれば優勝という所までたどり着いていた。


 俺は、受験勉強の息抜きもかねて、最終戦をテレビ越しで観戦した。


 相手は、隣町に本拠地を置くチームとのダービー対決。

 結果は……0-1の敗戦。


 最後2試合で、まさかの2連敗。そして、2位のチームに逆転優勝を許してしまうという、最悪のシナリオを迎えることとなった。



 ◇


 あれから6年後……状況は違えど、同じ場所、同じ対戦相手のダービー対決。

 6年前の壁をここで超えられなければ、優勝はない。そう言った意気込みで立ち向かう選手たちとサポーター。

 全員が一丸となって、目の前の敵を倒すことだけを目標にして戦う。


 準備は整った。

 チケットはSOLD OUT、大観衆のサポーターが見つめる中、審判が笛を鳴らして、運命のキックオフ。



 ◇



 試合はいきなり動く。左サイド、ラインぎりぎりのボールを残した選手がドリブルでペナルティーエリアまで侵入し、グラウンダーの素早いクラスを上げる。

 これをファーサイドで待ち構えていた選手のお腹の辺りに当たり、ボールはそのままゴールネットへ吸い込まれた。


 あっという間に先制点を奪うことに成功する。


 そこから、流石は去年のチャンピョンといった華麗なパス回しで、相手チームが攻めてくるが、なんとか耐え凌ぎ、前半を1点リードで終える。


 他会場では、2位のチームが先制点を許していて負けている展開。

 このままだと、勝てば優勝が決定する。


 後半も、序盤から試合が動いた。

 右サイドバックの選手が、なんと相手陣内中央でパスを受けると、周りをよく見て、絶妙なスルーパス。

 これを受けたFWの選手が落ち着いて流し込んで追加点!

 さらに畳みかけるように、右サイドを深い位置まで抉った選手がグラウンダーのクロスを上げると、これを走り込んできたFWの選手がワンタッチで合わせて追加点。


 スコアを3-0とする。


 そのころ、2位のチームは起死回生の同点ゴールを奪ったとの情報が入ってくる。

 このままだと、最終戦で調節対決を控えているので、今日の優勝は決まらない。

 だが、選手たちは目の前の試合に集中するのみ、そう思っていた矢先。


 相手チームが左サイドからふわりと上げたクロス、これを走り込んだ長身のFW選手が打点の高いヘディングシュートで決めきり、1点を返される。

 そこからは、相手チームが是が非でも得点を奪おうと仕掛けてくる時間が続く。


 刻一刻と時間が過ぎていき、残り時間もあとわずかという時、相手ディフェンダーにプレッシャーに行ったFWの選手がボールを奪い、そのまま独走。

 キーパーとの一対一を迎えて、シュートを打つと見せかけて横パス。


 そこにしっかりと走り込んでいた味方選手が無人のゴールへと流し込み、4-1。

 勝利という条件を決定づけた。



 そして……




 ピィ!



 試合終了スコア4-1。昨年のチャンピョンに強さを見せつけ、6年前の雪辱を晴らす解消を収めることに成功した。


 こうなると、気になるのは他会場。

 残念ながら、2位のチームはあのまま1-1のドローで試合を終えることになったため、今日での優勝は決まらなかったものの、最終戦の直接対決で。圧倒的有利という立場を得て臨むこととなった。



 ◇



 15年ぶりの優勝まであと一歩となった。

 俺と美帆は、最終戦へ向けて気持ちが踊ってきた。

 だが、その前に俺はこの一週間、違う意味でハラハラドキドキさせられるのだろう。

 準備も整えた。あとは当日、歓喜の瞬間を迎えるとともに、一世一代の大一番勝負を俺が実行に移すだけだ。

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