カップ戦

カップ戦 第1節 たまには、家で二人まったりと

 水曜日の夜、仕事を終えて家の最寄り駅で美帆と待ち合わせる。

 今日はカップ戦の開幕戦なのだが、北海道で試合のため平日に仕事を休んでわざわざ北海道まで行くことはさすがにできないので、美帆とおうちデートをすることになった。


 10分ほど待っていると、駅の改札口からスーツ姿の美帆が姿を現した。

 休日よりも、メイクをバッチリと決めており、シャキっとした印象であった。


「おまたせ~ごめん。待った?」

「いや、全然平気だよ。行こうか。」


 そう言って、手を差し伸べる。美帆はそれを見てニコっと笑顔を見せて手をつないでくる。


「今日はカレーでいい?」

「うん、達也が作ってくれるものならなんでも食べるよ」


 手をぶんぶんと振りながら微笑んで言ってきた。

 そんな感じで話をしていると、あっという間に家に到着した。

 

 玄関の鍵を開けて、トコトコと靴を脱いで家に上がった。


「ただいま~」

「おかえり~。ただいま~」

「おかえり。」


 お互いの挨拶を返し合って、リビングの明かりをつけた。

 俺はふぅっと一息つきながら、スーツを脱いだ。

 美帆は、テレビの前にあるソファーに歩いていき、そのままボフっと倒れ込んだ。


「はぁ~。疲れた…」

「お疲れさん。今からご飯作るから、先にシャワー浴びてもいいよ。」

「うん、もうちょっとしたらそうする。」


 倒れ込んだまま手を挙げながら答えていた。

 俺は自分の部屋に行き、スーツをハンガーに掛けて、部屋着に着替えた。

 リビングへ戻ると、復活した美帆が化粧を落としているところだった。


「ごめん、達也。私の寝間着取ってきてくれない?」

「はいよ~」


 俺は再び自室に戻り、タンスの一番下の段の右側にある。美帆の寝間着のストックと下着を取りだした。

 部屋から出て、洗面所の方へ向かって風呂場の脱衣所に美帆の着替えを置いておく。


 再びリビングに戻ると、美帆は化粧落としを終えて立ち上がったところだった。

 クリっとした可愛らしい雰囲気のすっぴん姿の美帆になっていた。


「着替え、風呂のところに置いておいた。」

「ありがと~。じゃあ、先入ってくるね。」

「おう。」


 手をヒラヒラとさせながら、美帆はそのまま風呂場の方へと向かっていった。


 野菜を切り。下準備を終えると、冷蔵庫からお肉を取りだして、鍋に油を引いて炒める。肉が色づいてきて、先ほど切った野菜を投入する。

 野菜がしなっとして来たら、お水を入れて沸騰させる。鍋が沸騰して、火を弱めて15分ほど煮込む。

 煮込んでいる間に、きゅうりとレタスを食べやすい程度に包丁で切ってサラダにする。

 サラダを完成させて、お皿に盛り付けて一旦冷蔵庫へ入れ直す。

 

 まだカレーが煮込むまで時間があったので、自室からスマホを持ってきた。

 インターネットを起動して、サッカーの速報ページを開いた。

 今日はカップ戦が行われているのだが、リーグ戦とは違う有料チャンネルでしか放送がなく、俺はカップ戦が放送される有料チャンネルの方は契約していないため、速報で試合状況を見るしかないのだ。

 

 速報を見ると、前半が終了しており0ー0だった。


 その他の試合速報もスマホで眺めていると、タイマーの音がピピピっと鳴った。


 俺はスマホから目を離して、すぐにカレーの鍋のふたを開けた。

 灰汁を取りだして、最後に市販のカレーのルーを入れてかき混ぜた。


 カレーが完成したところで丁度シャワーから出た美帆が、バスタオルで髪を乾かしながら出てきたところだった。


「お、カレー出来た?」


 髪を乾かしながらクンクンをにおいを嗅ぎつつキッチンへやってきた。


「うん、ちょうど今できたところ。すぐ用意するから待ってて。」

「は~い」


 美帆はそう言うと、再びお風呂場の方へ向かい、ドライヤーで髪を乾かしに行った。


 俺は器を2つ取りだして、カレーを注いだ。湯気が立ち上り美味しそうな匂いが漂っていた。


 机にカレーと先ほど作ったサラダと、箸・スプーンを並べて、最後に冷蔵庫から缶ビールを2つ取りだして、机に置いた。


「お、気が利くねぇ」


 すると、髪を乾かし終えた美帆がちょうどこちらへ向かって来ているところだった。


「まあな、冷めないうちに食べよう。」

「うん。」


 お互いに向かい合っている椅子に腰かけた。

 まずは、缶ビールを開けて、グラスに注ぐ。


「じゃあ、今日もお疲れ様」

「お疲れ様」


 二人ともグラスで乾杯をして一気にビールをグイッと飲む。


「ぷはぁ~」

「はぁ~」


 お互いに感嘆のため息が漏れる。


「じゃあ、いただきまーす。」


 美帆はグラスを置いて、丁寧に手を合わせてからスプーンを手に持って、カレーを救った。

 2回ほどフーフーとしてから口に頬張った。


「ん~、あふいへほ。おいひい」

「飲みこんでから喋りなさい。」


 俺が苦笑いしながら言うと、美帆はごくっとカレーを飲みこんだ。


「んう~おいしい。やっぱり作ってもらう飯が一番うまい!」

「はいはい、それはよかったですね。」


 俺はあきれ顔で自分が作ったカレーを口に入れた。


「あ、でも。達也が作ってくれたから余計に美味しいよ。」

 

 美帆はあざとくウインクをしながらそんなしょうもないことを言ってきた。


「はいはい、そうですか。」

「あ~流された~」


 美帆は口を尖らせてフイっとそっぽを向いて膨れていた。


「はいはい、褒めてくれてありがと~」

「は~い、どういたしまして。」


 今度は、えへへと笑顔を見せながら満足そうな笑みを浮かべていた。全く表情が豊かな奴め。

 俺は子供のように食事を楽しんでいる美帆を親のような目で見ながら食事を楽しんだのであった。


 食事を終え、片づけを美帆に任せて俺はシャワーを浴びてリビングに戻った。

 リビングでは、食器を洗い終わった美帆がソファーで寝っ転がってスマホをいじりながらくつろいでいた。


「ねぇ、試合1ー1の引き分けだったね。」

「あ、そうだったんだ。前半までの速報は知ってたけど、残念。」

「まあ、勝ち点1取れたし、いいんじゃない?」

「それもそうだね。」


 俺はバスタオルで髪の毛を拭きながら、美帆の隣に座った。


「ふぇ~」

 

 すると、美帆は俺の肩にちょこんと顔を置いた。


「どうした?」

「ん?いや、たまにはこうやってサッカーの試合観戦しないで、仕事終わりにこうやって二人で家でのんびりとするのもいいなーと思って。」


 くりっした目を俺の方に向けながら美帆が見つめてきた。

 そんな美帆の姿を見て、俺は手で美帆の頭を撫でる。


「そうだね。たまにはこういうのも悪くないな…」


 ふぅっと息を吐きながら俺はそんなことを言った。


「ねぇ…」

「ん?」

 

 美帆は頬を赤らめながらそっぽを向いていたが、もう一度俺の方を向いた。


「ベット…行こ」

 

 甘えた表情で美帆が言ってきたので、俺はいとおしくて仕方がなくなり、美帆の顔を手で押さえてキスをした。


「ん…はぁ。な、何急に・・・」

「いや、俺の彼女さんは可愛いな~と思いまして。」

「何それ・・・」


 口を尖らせたが、すぐにニコっという表情に戻りもう一度キスを交わす。


「ふぅ…」

「よしっ、寝る支度ちゃんとしてからベットに行きますか。」


 俺は美帆の手を掴みながらスっと一緒に立ち上がった。

 美帆はキョトンという表情をしていたが、状況を理解すると。頬を染めながらも、口角を上げて、ニコっという笑顔で、


「うん!」


 と答えたのだった。

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