第30節 北の大地

 飛行機から降り立つと、凍り付くような寒さが身に染みる。


 ここは朝の北海道。

 新千歳空港に降り立っていた。


 北海道は一昨日札幌で初雪が観測されたそうだ。気温は夜になると既に氷点下に近い肌寒さとなるそうだ。

 ダウンジャケットを羽織り、降り立った俺たちは、そこから電車に乗って札幌駅を目指した。


 まだ雪は積もってはいないが、葉が色づき、一足先に秋から冬へと景色を変えようとしていた。


「いやぁ~寒いね!」


 そう言いながらも、美帆は何処か北海道へ来たことに浮かれ気味なのか、テンションが高い。


 先週の風邪は、しっかりと治して万全の体調でやってきた北海道。だが、何とも虚しいのは、せっかく北海道に来たにもかかわらず日帰りということだろうか。

 試合はデーゲームのため、宿泊代がもったいないということで、最終便で東京へと戻る。

 まあ、来年も札幌は残留したし、来れるだろうという魂胆だ。


 そうこうしているうちに、電車に揺られること1時間ほど、札幌駅に到着した。そこから地下鉄東豊線に乗り換えて、終点まで進む。

 そして、到着したのは札幌ドーム!


 今日はアウェイの中での重要な一戦。

 前回ホームでの対戦はまさかの0-3の完敗を喫しただけに、なんとしてもリベンジが求められる試合だった。

 相手も、今年のカップ戦決勝で近年まれに見ぬ大激闘を演じたチームだ。

 難しい試合展開になるのは、予想できる。


 入場すると、中は空調が聞いており、まさに過ごしやすいといったような感じだ。

 流石はドーム。天候や気温を気にしなくていいのは嬉しい。


 席を確保して、俺たちは昼食を食べに行く。

 といっても、再入場も出来ず、アウェイ側のお店も2店舗しかなかったので、並んで買うしか選択肢はなかった。もう少し、この対応どうにかなりませんかね?


 コンコースはホーム側のお店の方にも行けるとかもう少し対応をお願いします。

 そんなことを心の中で思いつつ、俺たちは昼食を取り終えると、並んでいる時間でかなりの時間を要してしまい、既にGKのウォームアップが始まっており、フィールドプレイヤーの選手たちがピッチに姿を現したところだった。


 いつもと変わらず、大きな声援を送る。

 北海道にも関わらず、多くのサポーターが駆けつけていた。

 流石は優勝争いをしているだけあって、サポーターたちの気合の入り方が違う。


 ドームだからなのだろうか?

 応援が天井に反響して、いつも応援している時とはまた違う雰囲気が会場を包み込む。

 だが、選手たちは顔色一つ変えずに真剣な表情でウォームアップをしている。


 流石はプロ選手といったところであろう。


 アップ時間が終わり、両チームの選手紹介も終わり、選手入場の時。


 コイントスを終えて、自陣で円陣を組むと、いつものように選手たちは各ポジションへと散っていく。

 そして、審判が時計をちらっと確認して、ピィ!っと笛を鳴らして、試合が始まった。



 ◇


 試合はいきなり動く、相手GKがパス回しに参加し、DFの選手から受けたバックパスを大きくトラップミス。それを逃さなかったFWの選手がかっさらい、無人のゴールへ流し込み、あっという間に先制に成功する。勢いは止まらない、わずか2分後。

 右サイドを裏へ飛び出した選手がタッチ際で粘り、クロスを上げると、中で待っていたFWの選手が飛び込みヘディングシュート。これが見事に決まり、2-0とする。

 試合はさらに動く、コーナーキックのピンチでヘディングシュートを打たれてしまう、これはGKがピッグセーブで弾くも、こぼれ球を押し込まれてしまい、2-1とされる。


 そこからも、お互いボールが落ち着かない展開が続き、前半22分。ボールを奪って中央をドリブルで突破。ディフェンス全員を抜き去り、GKとの一対一のビッグチャンス!

 なんと、ドリブルでそのままGKも抜き去り、無人のゴールへと流し込み、スコアを3-1とする。


 その後は、ようやく試合が落ち着いたこともあり、前半は3-1で終える。


 後半、序盤からボールを支配して攻勢に出る中。後半20分。スルーパスで抜け出した選手がペナルティーエリア内で倒されて、PKを獲得する。


 これを倒された選手自らが決めて、スコア4-1。

 だが、その直後、相手に自陣まで責められると、見事なワンタッチの崩しから失点を犯して4-2とされる。

 そこからは、ペースダウンしたこともあり、相手に攻め込まれる時間が増えたものの、何とかそれ以上の失点は許さずに試合はそのまま4-2で終了。


 こうして、優勝へ向けて大きな勝ち点3を得るとともに、見事ホームでのリベンジを果たすのであった。



 ◇



 この後、勝利の宴をしに札幌の繁華街すすきのへと出向き、明日観光をしてから帰るサポーターも沢山いるだろう。

 少し、一泊旅行にしなかったのを悔やみつつ、俺と美帆は空港行きの電車に座って流れていく景色を眺めていた。


「やっぱり北海道って素敵なところだね」


 ふと美帆がぼそっとそう呟いた。


「そうだな……」


 北海道は、都道府県魅力度ランキングでも毎年トップを独走していることを考えれば、この自然豊かで、空気がすんでおり、景色がいいの三拍子そろっているだけでも、納得がいく。


 空港へ行く主要路線にもかかわらず、それを味わうことが出来るのだから、なおさらだ。東京にいたら、こんなビル一つない景色なんてほとんど味わうことが出来ない。自然の壮大さに、どこか安心感さえ芽生えてくる。


「はぁ~やっぱり一泊していくべきだったなぁ~」


 美帆が頭を抱えている。


「ま、まあ、試合には勝ったんだし。いいじゃん?」

「だからそこ! 心置きなく観光が楽しめるじゃない!」


 まあ確かにそれは一理ある。けど今回は完全にサッカー観戦がメインの旅行だったから、仕方ないのだ。だから、俺は美帆をなだめるようにさやしく微笑んだ。


「また来年来ようよ。一緒にさ」

「うん、約束だよ?」


 頬を少し赤く染めて、そう言ってくる美帆。


「あぁ! もちろん」


 俺はもう何か、来年もこうやって一緒にサッカー観戦を楽しんでいる姿が想像できてしまった。それが、また別の形となっていれば俺にとっては最高なのだが、それは最後まで蓋を開けてみないと分からないので、神のみぞ知るといったところだろうか。


「まあ、空港で時間あるし、食では北海道を味わえると思うから、今回はそこに全力を注ごう!」

「そうだね。美味しいものがいっぱいあるから、頑張って全種類制覇しよう!」

「えっ……全部食べるの??」

「あったりまえじゃん! 何? 怖気づいてるの?」

「んなことないわ。いいよ、魚介から肉、野菜、フルーツにデザートまで全ジャンル制覇してやるぜ」

「よしよし! その心意気だ!」


 そんなくだらない会話をしながら、微笑み合う俺と美帆。この関係性がずっとこのまま続きますように、そして、来年もこの地に一緒に訪れていますように、俺はそんなことを心に思って北の大地を後にするのであった。

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