第29節 神奈川ダービー
東海道線に揺られることしばし、相模湾の海
も今日は曇り空に風が強いためか海がしけている。
そんな中到着したのは、神奈川県の中間に位置するターミナル駅。
ここから30分ほど歩いてスタジアムへと向かう。
「いやぁー今日は一段とまた人が多いね!」
「まあダービーだからな」
そう、今日はダービーマッチのアウェイゲームが行われる。
10月も半ばに入り、秋の気配が深まる気温の中。雨も上がり始め、空には青空が見え始めた。
「にしても、今日はまた嫌なタイミングで…」
正直、今ダービーマッチはしたくなかった。
相手チームは、監督のパワハラ問題などで、色々といざこざがあり、最終的に先週ついに監督交代に踏み切ったばかりなのだ。
相手がどう戦術を変えてくるのか、どう選手を新しい監督が起用してくるのか未知数な部分があるので、試合が始まってから選手たちが臨機応変に対応していかないと行けないだろう。
優勝争いに残り、最後に笑うためにも絶対に負けられない戦いだ。
だが、相手も残留がかかっている。1試合も楽な試合はない。
そう思うと、昨年は残留争いに最後まで苦しんだ。
最終的には得失点差でなんとか降格を免れるというギリギリの戦いをしていた。
その事を考えると、今年は既に残留を決めており、なおかつ優勝争いに絡めているということを考えると奇跡に近い。
美帆と話しているうちに30分という時間は待つという間に思えるもので…
あっという間にスタジアムのある公園に到着した。
待機列には道が埋め尽くされるほどのサポーターが押しかけていた。
そりゃ、県内のアウェイなら日帰り出来るし、アクセスもいいので多くの人が来るだろう。
◇
開門時間になり、荷物検査をパスして無事にスタジアムの中へとはいり席を確保した。
ゴール裏は少し歪な形になっており、真ん中は区切りのない石段で、サイドは一つ高い所に椅子付きの席が設けられている。
いずれは、真ん中のスペースも座席式になるのだろうか?
俺達は石段の端の当たりを確保してプルーシートを引いた。
下は雨で濡れているのでブルーシートを持ってきて正解だった。
ブルーシートの上に腰かけて、辺りを見回すと、今日は丹沢や中井の方の山は見えない。
そりゃ雨上がりで雲も多いから仕方ないよな。
もしかしたら、向こうの方はまだ雨が降っているかもしれない。
そんなことを考えている俺をよそに、美帆は先ほど購入したスタジアムグルメの唐揚げを袋から取り出した。
「ほい、達也の分」
「ありがと」
箸と唐揚げの入ったタッパーを受け取る。
「いただきます」
「いただきます」
お互いにいただきますの挨拶をしてから、唐揚げを頬張る。
口の中に入れた瞬間、ジュワッと肉汁が溢れ出る。唐揚げ独特の脂っこさと肉の繊維が噛む事にほぐれていく感じがたまらない。
いつもここに来た時にはオススメしたいスタジアムグルメだ。
あっという間に平らげて、試合の準備に取り掛かる。
ユニフォームに着替えて、ブルーシートと半分に折りたたみ、荷物おきにして立って応援するスペースを取る。
そして、試合開始45分前。
GKのウォーミングアップが始まる。
それと同時にゴール裏のボルテージも上がり始め、5分後にフィールドプレイヤーの選手が入ってきた時から怒涛の応援が始まる。
相手と母体数は同じ。つまりはより大きく声を張り上げた方の応援が勝つ。つまりはアウェイであるにも関わらず、ホームと同じような雰囲気を作り上げることが出来るのだ。
コールリーダーは、バックスタンドやメインスタンドに座って応援している駆けつけたサポーターにも声をかけて手拍子を促す。
そんな甲斐あってか選手たちのボルテージも上がっていく。
最高の雰囲気で選手入場を迎えた。
満員のスタジアム、最高の天気と気候。
舞台は整った。
円陣を組み終えて選手たちが各ポジションへとスタンバイする。
審判が腕時計を確認してピィーっと笛を鳴らして試合げ始まった。
◇
前半から予想したとおり、相手は高い位置からハイプレスをかけてボールを奪いに来ようとする。
だが、こちらも周りを確認して落ち着いてパスを回してビルドアップしていく。
そんな中で、相手のハイプレスを掻い潜って、何度もチャンスを作っていく。
一方の相手も、セットプレーからチャンスを作り出してくるが、DFとキーパーが落ち着いて対応してゴールを割らせない。
迎えた後半終盤、左サイドから右サイドへパスを展開して、ペナルティエリア内で受けると、カットインからシュート!
これが山なりの起動を描き、キーパーが手を伸ばしても届かない絶妙な位置に決まり、先制に成功する。
前半は1ー0で終える。
迎えた後半、先程得点を挙げた選手が中央をドリブル突破。これに相手選手が後ろからファールをおかして、中央やや右側からのいい位置でのフリーキックを獲得する。
これをズドンと壁の上を越えてゴールに落とすような完璧ね軌道を描いて、ネットが揺れる!
見事直接フリーキックが決まり、スコア2ー0とする。
さらに畳み掛けるように、左サイドのドリブルからカットインすると、倒されてペナルティーキックを獲得する。
これを左端に落ち着いて決めて3ー0。
だが、ここから疲れてしまったのか、守備に費やす時間が増えていき、あでショナルタイムに1点を返させるがそのままタイムアップ。
3ー1で勝利し、首位との勝ち点差をついに1まで縮めた。
◇
試合が終わり、俺達は帰路につく。
この30分の時間も足取りが軽い。
「いやぁー白熱したね」
「ほんと、白熱したな」
試合の余韻に浸るように俺たちにも達成感がある。
駅に到着してからも夕焼け空が広がる湘南地区の空が影響しているのか、清々しい気分だ。
「ねぇ」
「ん?」
すると、ホームで電車を待っている間。線路の方を向きながら美穂が呟いた。
「優勝…したいね」
「お、おう…」
突然の真剣な表情に俺は思わず見とれてしまい、中途半端な返事になってしまう。
それげお気に召さなかったのか、美帆がむぅっと膨れっ面をしてこちらに振り向いた。
「何? そのやる気のない返事は?」
「あぁ…いやっ」
俺は一つ咳払いをしてから美帆に向き直る。
「そうだな!」
今度は覇気のある声でそう言い放つ。
すると、美帆はニコッと破顔して「うん!」っと微笑んだ。
これが高校の時だったらこれを青春と呼ぶのであろう。
だが、今は大人だ、これをなんと表現すればいいのか。俺には分からない。
だが、この雰囲気なら…これが持続すれば本当に…
俺はそう頭の中で感じた。
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