第24節 連敗を止めるため
今日は、8月最後のホームゲーム。
そして、しばらくラグビーのワールドカップの影響で、ホームスタジアムが使用できなくなるため、ここを使用するのは最終節までない。
そんな状況の中、チームもリーグ戦3連敗中とこちらもまた佳境を迎えていた。
優勝争いから一歩後退と言われないためにも、是が非でも勝利が欲しい所。
「今日は勝たないとね」
「今日負けると厳しいからなぁ・・・」
待機列に並んでいる間にも、他のサポーターからの不安そうか声が聞こえてくる。
だが、俺たちに下を向いている暇はない。どんなに苦しい状況だろうが、応援し続けるのがファンとしての唯一出来ることだ。
そんな思いを秘めつつ、スタジアムへ足を踏み込んだ。
◇
美帆は珍しく友達とどうしても遊ぶ予定が出来てしまったということで、俺一人での観戦となった。
一人なので、席も端の席を選ばなければたやすく取ることが出来た。
陽も大分短くなってきており、すでにスタジアムの上にはオレンジ色に染まった夕焼け空が一面に広がり、スタジアムには照明がピッチを照らしていた。
美帆がいない応援は、久しぶりかもしれない。それこそ、美帆と付き合う前とか・・・
相当前まで遡らないとないかもしれない。
先程、スマホに美帆からメッセージが届いており、『今日の試合、絶対に勝って来てね!』という、伝言が残されていた。
俺も『まかせろ!』と、返事を返した。
それからは、美帆は友達と楽しく遊んでいるようで、既読も付かなかった。
そして、あっという間に時間は過ぎていき、選手がウォーミングアップのためにピッチに入ってきた。
ウォーミングアップ中も、ファン・サポーターたちは、勝利のために選手たちを鼓舞するために応援歌をひっきりなしに歌った。
今日は美帆もいないので、俺はいつも以上に気合を入れて声を張り上げて応援した。試合が終わった時に、喉がつぶれてもいいと言わんばかりの覚悟をしてきていた。
『もう、ここで負けられない!優勝のため・・・そして、俺たちのためにも!』
そんな思いを込めて必死に応援を続けた。
選手紹介も終わり、試合開始時間が近づく。
すると、美帆から返信が届いた。
スマホを開くと、『達也へ』という堅苦しい文面から、
『この試合、もしも勝利したら…いいことがあるかもね』
と書かれていた。
いいこと?いいことってなんだ!?!?
美帆に返事を返すと、『内緒~♪』っといじらしい返事しか返ってこない。
凄い気になるところだったが、もう選手入場も終わり、自陣で円陣を組み終わりセンターサークルでボールをセットしているところであった。
俺は『わかった、楽しみにしてる』とだけ返事を返して、ピィっと審判の試合開始の笛が鳴ったと同時に、スマホをポケットにしまい。試合に見入った。
◇
試合は開始早々、ペナルティエリアで倒されてなんといきなりPKを獲得する。
これをきっちりと左隅に決めて幸先よく先制する。
しかし、そこから相手の猛攻にあい、何度も決定的ピンチを招くが、何とか最後のところで守り抜く。
すると、前半終盤、左サイドを深く抉り、ゴールラインギリギリのところでクロスを上げると、走り込んできた選手がトラップから見事なオーバーヘッドキック炸裂!
誰も相手は反応出来ず、ゴールネットを揺らして2ー0として前半を終える。
迎えた後半もいきなりチャンス!
スルーパスに抜け出した選手がキーパーを交わす!
ゴールへ流し込もうとした所、戻ってきたDFに後ろから倒されて再びPK獲得!
相手DFは、一発退場!
そして、このPKを今度は右隅にきっちりと決めて3ー0、試合を決定づけたかに思えた10分後だった。
左サイドから突破を許してクロスをあげられる。
それを相手のエースストライカーに決められて3ー1とさせる。
相手が1人少ない状況で返されてしまったのだから、もう攻め続けるしかない。
さらにギアをあげる。
ボールをカットして右サイドを一気にドリブル突破。
そのまま持っていき、シュート!キーパーが弾いたところを走り込んでいた選手が蹴りこんで4-1とする。
さらにそこから、4点目を決めた選手が締めの5点目を叩き込み勝負あり。
今シーズン初の5得点快勝!
なんとか連敗を3でストップして、優勝へ向けて再びターニングポイントとなりそうな試合をして見せたのであった。
◇
「ただいまー」
「おかえりー!!!」
「えっ?」
いきなり、玄関前でいるはずのない彼女に抱きつかれた。
お風呂上がりなのか、シャンプーのいい香りが漂い、頭がくらくらしそうだ。
美帆は抱きつくのをやめて、むくれっ面を浮かべた。起伏の変化が激しい子である。
「どうして私がいない試合に限って楽しい試合になっちやってんのー!!」
悔しそうにそう怒ってくる。
「いや、そう言われましても」
「ずーるーい!!」
そう言ってぷいっとそっぽを向いてしまう。
「罰として、今日はめいいっぱい私を慰めてもらうからね!」
そのままリビングへと歩いていってしまう美帆。あぁ、こりゃ、遊びでも何かあったな…
俺は今日は長い夜になりそうだなぁと思いつつ、気分は晴れやかで靴を脱いで美帆の後を追うように、リビングへと入っていったのであった。
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